「満点が不満点」
「……#復讐代行を見て依頼した者なんですけど……」
「はぁーい。あ、ネットで依頼をしてくれた方ですよね? 事務所までわざわざありがとうございますっ。昨晩、依頼通りに、復讐代行を完了したはずですけど……? はっ! もしかしてなにか問題でもありましたか!? 大きな失敗でも――」
「いえ」
依頼者は首を左右に振った。
伝えた依頼内容通り、依頼は完了している……それは依頼者も確認していた。
大きなミスもない。
望み通りである……ただ、望み通り過ぎる。
少しのアレンジもない――。
指示通りであるがゆえに、想像を越えない結末に少しの不満が出てきた。
百点満点を理由に、減点対象になってしまったのだ――。
「……えっと……? つまり、私はどう対処すればいいんですかね? 追い塩ならぬ、追い復讐をすればいいんですか? ただ、それだとオーバーキルになってしまいますけど……。やられた分をやり返す復讐だったものが、あなたが加えた分、相手に復讐させる余地を与えてしまうことにもなります……、相手から#復讐代行の依頼がくれば、私はあなたに復讐をしなければいけなくなりますけれど……それでもよろしいのですか?」
依頼者は「構いません」と言った。
……その覚悟の上で……。
それほど、一回目の復讐の結果に不満があったのだろうか。
完璧な仕事をしたと思ったのに、だからこそ文句を言われるとは、初めての経験である。
「なら、依頼は受理しますけど……どうしますか? 指示通りに動くことで不満が出たんですよね? 次は指示以外のこともしてみますか? 望んだ結果通りにならない可能性は高くなりますけど……」
「それは困ります」
えぇ……、と、#復讐代行者は戸惑う。
それもそうだ、指示通りに動けば不満が出るし、アレンジをしても不満が出る……ようするに『終わり良ければ全て良し』という判断なのだろうが、『良ければ』の判断が依頼者に委ねられている以上、気分次第とも言えた。
どんな仕事をすればいいのか、現時点での正解はない――。
「#復讐代行者さんは、俺が満足するような結果を残してほしいんです。ですけど、それを事前に示すことはできません。結果を見せてもらってから、判断しますから……。気に入らなければ文句を言いますし、気に入れば感謝しますので……」
「はあ…………、はぁ?」
社交辞令の笑顔を見せていた#復讐代行者だったが、さすがにわがまま過ぎる依頼者に、笑顔も崩れた……語気も強い。
苛立ちが目に見えている。
「あのですね……依頼者さん……、こっちも暇じゃないんですよ。それに、お金を貰っているからと言って、なんでもやるわけではありません。こちらも依頼を選ぶ権利があるわけです――つまりですね、こっちのやり方に不満を漏らすなら、自分でやれ」
#復讐代行である。
本来、本人がするべきことなのだから。
――本人がしてこそ、復讐は真価を発揮する。
代行? 自身ができない状況なら、するべきではない。
まだタイミングではないのだ……、だって復讐なんて、少なくとも、するよりもしない方がいいはずだ……相手が悪いのであれば、それはすぐにでも裁かれるべき案件である。
個人の復讐よりも先に、法が黙っていないはずなのだから。
「私は#復讐代行を生業としていますけど、私も一人の人間ですから。程度がどうあれ、気分を害されたと判断すれば、そこは代行ではなく、本人直々の復讐もすることをお忘れなく」
―― 了 ――
初出:monogatary.com「#復讐代行」
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