「ひったくり」
背後から足音が聞こえてくる。
私は道の端へずれたけど、その男は私の肩にぶつかってきて……
私の腕から、カバンを奪い取っていった。
「きゃあっ!?」
「――お姉さん!? 大丈夫ですか!?」
傍にいた中学生が、倒れた私に手を貸してくれた。
正義感を持った勇気ある少年だったようで、彼はカバンを盗っていったひったくり犯の背中を追いかけようと走り出し――、
その寸前で、なんとか私の声が間に合った。
「君っ、大丈夫っ! 追いかけなくていいからっ!」
「でも!」
「大丈夫なのよ、本当に……だってあのカバンは……」
すると、遠くの方から爆発音が聞こえてきた。
どうやら橋の上で爆発したらしく、被害は橋が落ちただけだった……。カバンを抱えていた男がどうなったのかまでは分からないけれど、自業自得なので、あれを被害者と呼ぶのは違うでしょうね……だから被害者はゼロである。
橋は壊れちゃったけど、まあ災害による事故だと思ってもらえれば。
すぐに直せるものじゃないでしょうから、そこは作業員の方に頑張ってもらうしかない
「……え?」
「あのカバンの中身、爆弾だったから……盗られても大丈夫だったのよ」
同時に、私が爆弾を爆破させることもなかったから――持っていたことは事実だけど、爆破させたのはあの人だ。なので、私の罪は一番軽いものになるんじゃないかしら?
口を回せば、捕まらないことも可能でしょう。
「お姉さんは、一体……?」
「ん? さて、なんでしょう? 過去に爆弾をカバンに入れて持ち歩いていた、今は一般人のお姉さんとしか言えないわよねえ?」
少年に気づかれたのは失敗だったけど、彼の証言で私が困ることはない。
私も、大人として発言すれば、中学生の意見くらい覆せるんだから。
―― 完 ――
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