何でも屋とクロカバの木


「さてと、小腹は満たされたし。次はどうやってお金を稼ぐか、だね」


 今、私達はアットホームマート裏に設置された丸太小屋の休息所に居る。

 『ご自由に利用して下さい』と張り紙に書いてあったからご自由に利用している。


「あーあ。こっちに来ても、結局お金かぁ」


 私はテーブルに突っ伏して、ブラックさんに貰った白いスマートフォンを動かしてみる。

 反対側に座った日向もまた黒いスマホで色々と検索中っぽい。手がシュッシュッと動いている。プイちゃんは私の頭の上でぷいぷい言っている。楽しそ。


 ――あ、スマホは本当に地球と同じ。

 電話機能もあるし、メール連絡も出来る。ゲームアプリや動画配信のプラットフォームもある。こっちの世界で有名な動画配信プラットフォームの名前は『MeミーPipeパイプ』って言うんだって。なんだか地球の某動画サイトを彷彿とさせる名前。

 まあ、製作者が地球出身・地球育ちのパパだからねー。


「……お? 見かけないお客だな!」


 私のスマホの画面に、ゆらっとシルエットが映る。

 顔を上げると、透き通る様な水色の目。銀髪に浅黒い肌の男が立っていた。


 紐付きの麦わらで出来た三角帽に黒い素肌に丈の短いベスト、アラビアンパンツ、足元はプーレーヌ。そして露出が激しい素肌は黒く波打つ紋様が全身描かれていた。

 背中には超でかい黄土色のリュック(ミニ冷蔵庫一個分くらいの!)を背負っていた。リュックからは木の実や謎の瓶詰め、ツルハシがはみ出している。

 男の人はニカッと笑うと、八重歯が零れた。


「アンタら冒険初心者? 深淵の地アビスへ潜る予定かい?」

「そ、そうだけど?」


 私はこの男の相手をしながら、日向をチラチラ見る。

 この人は一体誰なの? というアイコンタクトだ。


「何でも屋だね」

「何でも屋?」


「まいど~!! 深淵の地アビスの心強い相棒パートナー! 何でも屋でありぃ!」


 何でも屋と言われた男は揉み手をしながら、私たちにペコペコと頭を下げた。見た感じは私たちよりも少し年上の男の子。


「ダンジョンの中にいる、アイテム売りの人だよ」

「ああ、なるほど!」


「お坊ちゃん達、深淵の地アビスでお困りな事がありましたら、すぐこちらに連絡してね。すぐに駆けつけるから!」


 と、私たちに名刺を渡してくれた。それには電話番号が書いてあって、電話をすれば直ぐ来てくれる様だ。すると、日向が私の耳に顔を寄せて小声で囁いた。


「でも商品価格が通常の三倍するから、本当に困った時しか利用しない方がいい」

「ひえ、ぼったくり!」


 私のついポロッと出た言葉に、何でも屋がピキッと笑顔を凍らせた。


「へい、そこのお嬢ちゃん。俺の商売をぼったくり、とは何だい?」

「あ、いや……」

深淵の地アビスは過酷なダンジョンだ。そんなダンジョンに商人が命からがら! こーんな大荷物を持ってアンタたちの様な無謀でペーペーの人間を助けに行くんだぜ? アイテムの値段が三倍くらいしてもガタガタ文句言うんじゃねーぞ!」


「ご、ごめんなさい」


「お前らだって、深淵の地アビスへ行けば俺様の有難みがイヤ〜ってほど分かるぜ!」

「あのう、何でも屋さん」

「おう?」

「僕たち深淵の地アビスへ冒険に出ようにも装備を揃えるお金が無いんです。地上で楽に稼げるアイテムってありますか?」


「…………」


 何でも屋が黙る。

 でも、その顔は絶対に稼げるアイテムを知っている顔なんだよね。


「日向! この人、意地悪で教えてくれないみたいだよ!」

「お前な〜〜! 情報をタダだと思うなよ! 情報だって金を生み出す立派なツールだ。その情報をタダでくれてやるなんて、商人の俺様がするわけないだろうが!!」


「でも僕たち、本当にお金が無いんです。一銭も」

「ぷいい……」


「!!」

 プイちゃんが日向を真似て悲しく鳴いた瞬間、何でも屋の顔がパッと明るくなった。


「お嬢」

「え?」

「そいつ、まさか……」


 思わずプイちゃんを抱き留めた。


 ……さっき、ブラックさんもプイちゃんを見て驚いていた。神龍の子だって。

 もしかして、この世界では歓迎されない生き物なのかもしれない、と思うと自然とプイちゃんを守ろうとしていた。


 ――しかし、それは私の思い違いだった様で。


「もっふもふじゃねーか!!」


「「は??」」「ぷい?」


「……そ、そいつを抱っこさせてくれたら、この近くで金目になるもの、一つ教えてやってもいいけど……?!」


 急にツンデレみたいな事を言いだした何でも屋。

 私と日向が呆れているうちに察したプイちゃん。自ら、何でも屋の顔に「ぷーい!」と貼り付いた。


「うわっ! ふわっふわ! もふもふ!!」

「ぷい!」


 何でも屋に抱き付かれているプイちゃん。その顔は「ボク、がんばってるよ!」と言っているかのようにキリッと凛々しい。

 しばらくプイちゃんのもふもふを堪能した何でも屋。その緩まった顔を再び引き締め、約束通り教えてくれた。


「あー、コホン。ほら、あれだ。クロカバの木。あの巨木は硬度が高く太い。地上にいる人間がやったらめったら切れる代物じゃないんだ。あれを切ってアットホームマートで売れば、一本で軽く3万エムは稼げると思う」

「おお!!」


「ま、お嬢と坊っちゃんのそのほっそい腕と剣じゃ、切るのも無理だと思うけど……!」






 シャキーン!!


 ドオォォォオン!!




「切れたー!!」

「嘘だろー!?」



 クロカバの大森林に地響きを伴って倒れたのは、全長一キロはありそうなクロカバの木。

 何でも屋は硬いと言っていたが、私の剣ならばバナナの様にサクッと切れた。

 これが、チート能力か。すっごい!


 さらにクロカバの木を薪ぐらいの大きさにサクサクと切り刻んでいく。

 それを見ていた日向が、


「半分くらいは炭にすれば、もっと高値で売れるんじゃない?」


 と、銀の杖をクロカバの丸太にコツンと乗せて「炎獄フレイム」と呟けば、一瞬にして丸太が赤く染まり、メラメラと燃え出した。

 更に「絶対零度アイシクル」と呟けば、丸太は急激に冷やされて黒い炭が出来上がったのだ。


「日向、やるじゃん! その呪文は自分で考えたの?」

「いや……頭の中で枯れた声の誰かが僕に囁いたんだ。気持ち悪い」


 驚く何でも屋をよそに、私たちはクロカバの丸太と炭をアットホームマートの売却コーナーで売ると、なんと、5万エム(ミッドランドの通貨の名前だよ!1エム=1円と一緒)になった!


 やったー!!

 一気にお金持ちになったよー!!

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