プイちゃんと動画


 アットホームマートは小さいコンビニながら品揃えは抜群。着替えに食料、その他日用品。更に簡易テントや寝袋まであったの!

 もちろん購入購入♪


 それからアットホームマートから徒歩三分の拓けた場所にテントを設置して本拠地にする。

 (トイレを借りたいからね!)


「とりあえず、今日のご飯と寝る場所は確保出来たけれど。……明日からはどうしようか」


 日向が鮭おにぎりを食べながら、呟く。

 クロカバの木を売ってちょっとお金もちになった私たち。

でも生活に必要な物を色々と買ったら、もう残り少ない……。


 残り5,200エム。


 ……生活するって、びっくりするぐらいお金が無くなるのを実感した。

 今までお金なんて気にしない贅沢暮らしが出来ていたのはパパのおかげ。

 地球に帰ったらパパにはすっごく感謝しないと。

 早く『天地無用の石』を見つけて帰るからねっ!


「クロカバの木はもう切れなくなっちゃったしなぁ」


 そう、そうなのだ!

 クロカバの木を売りに行った後の出来事。

 アットホームマートにクロカバ大森林地域を統治する国の兵隊さんがやって来てさ、実はクロカバの木は国の指定保存樹林……つまり、景観を守るために切っちゃいけない木だったんだって。

 要するに、日本で言う所の、国立公園の木を無断で切って売っちゃった、という訳。


 知らなかったという事と、子供のした事という寛大な采配で、無実になったけれど……。

 次にやったら牢獄行き。


 もおお! 何でも屋の奴!!

 今度、会ったら覚えてらっしゃい!!


 ご飯を食べ終わり、日向はその場にゴロンと寝っ転がった。


「なんだか疲れちゃったな。今日はこの世界のオモシロ動画でも見て、もう寝ようかな」


 なんて、言ってスマホをいじり出す。

 私としては寝る前にお風呂に入りたいけれど、無い物はしょうがない。

 明日にはどうにかして、お風呂に入れるようにしたいな……。


「ぷい♪」


 その時、ご機嫌なプイちゃんが私にすり寄ってきた。


「どうしたの?」

「ぷ、ぷーい!」


 その柔らかい真っ白な体を撫でた瞬間、額についているエメラルドグリーンの石が光り輝き、テントの壁に映像を映し出した。

 それはなんと。私と日向がクロカバの木を切って炭にしている動画で。


「な、なにこれー?!」

「ぷぷーい!」

「えー、うっそ。プイちゃんってカメラ機能がついているの?! すっごい!」

「ぷい!!」

「あ、やだ~! このクロカバの木を切っている私、すっごい凶悪な顔している!!」

「素が出ちゃっているね♪」


 私は日向の背中をど突いた。

 そんな私達の会話をジッと上目遣いで聞いていたプイちゃん。

「ぷい!」と動画に向かってちっちゃな手を差し伸べると、クロカバを切っている私の顔がもにゃもにゃ~と歪んだ。


 そして、次の瞬間。


「ぶふーーーーーーっつ!!」

「な、なにこれーー?!」


 私の目がプリクラ加工をしたようなデカ目になったの!

 少女漫画のキラキラなあの目。

 お腹を抱えて笑い転げる日向。

「ぷい!」とドヤ顔のプイちゃん。きっと良いことした~って思っている。


「やだやだ! プイちゃん、元の顔に戻して!」

「ぷー……? ぷい!」


 すると、私の顔がプイちゃんの顔になった。しかもテロップ(動画の画面下に挿入されている文字の事ね)で『プイ!』とピンクの丸文字で、でかでかと出された上に、BGMまでついていて、それが何故かオーケストラで壮大なの!


「ぶふーーーーっつ!!」

「違う違う! 私の顔!」

「ぷー?」


 それから修正する事、12回。

 何とか元通りになった。


「あー……。一生分、笑った」


 日向は笑い疲れてぐったりしている。

 私も疲れた。


 しかし、今の事で分かった事。

 プイちゃんはどうやらカメラ機能が付いている神龍らしい。そして、動画編集機能までついている。


「ねえ、日向」

「ん? なに?」

「このプイちゃんの機能で、私たちの冒険を動画配信したら、お金になるんじゃない??」


 日向はガバッと起き上がり、


「良いじゃん! ちょうど僕たち最強チートだし!!」

「でしょでしょ??」

「でも葵。どうして動画配信が儲かるか、知っているの?」

「えー? 動画流せば誰か……視聴者とかが、お金くれるんじゃないの??」


 ふーっと、日向は首を振ってため息をついた。

 ……こいつ。私の事、馬鹿だと思っているな……。


「広告だよ。ほら、地球でも動画が始まる前に広告が流れるでしょ? 広告を流す代わりに、広告主から掲載料を貰うんだよ」

「なるほどー!!」

「で、ここからが問題。その広告主スポンサーを誰に頼むかって事だよ」


「……アットホームマートとか?」


「アットホームマートは、地球で言う所の大手コンビニ。大企業だよ。無理に決まっているじゃないか」

「じゃあ、どうしたらいいの?」

「ほら、僕たちにも、宛てはあるじゃない」


「??」




 ◆




「……うわっ! なんで、お前らが……?!」


 翌日早朝。

 私達は地下洞窟の入口近辺でテント野営をしていた何でも屋を発見して、寝起きを襲った。


 昨日、日向が言っていたんだよねー。

 きっと、何でも屋は今日は地上で泊まって、朝一で深淵の地アビスに潜るんじゃないかって。だから、明日の朝早くに深淵の地アビスの入口付近を探せば居る筈だって。ビンゴだった。


「何でも屋! 昨日はよくも騙してくれたわね!」

「何がぁ?」

「クロカバの木よ! あれ、切っちゃいけない木だったんだよね?! 知っていて騙したんでしょ!」

「あー? 俺はそんな事まで知らねーよ。地上の事は詳しくないんだ」

「クロカバの木が高値で売れるのは知っていて、他の事は知らないっての?!」

「俺は商人として、クロカバが売れるのは知っているってだけだ! 地上には売り買いくらいしか来ないから、知らないんだよ!!」


 本当は別のお願いに来た筈なのに。

 何でも屋の呑気な寝顔を見ていたら昨日の恨みがついつい先走ってしまった。

 いけない、いけない。私の悪い癖だ。


「まあまあ、葵。商人の彼に口で戦ってもしょうがないって」


 興奮する私の肩をぐいっと引っ張る日向。

 日向はぼーっとしている事も多いけれど、頭はキレる。


「なんだよ。じゃあ、喧嘩売りに来たのかよ! 言っとくけどな、俺はちょ〜っ弱いからな!!」


 ……偉そうに言うことでは無いと思う。


「違いますって。僕たち、深淵の地アビスへ潜って、その体験を動画配信しようと思っているんです」

「……ふーん、それで?」

「動画のスポンサーが必要なんです」

「俺はスポンサーなんてしないからなっ!」

「ええ、だから何でも屋さんが僕らにスポンサーを紹介して頂けませんか?」


「俺が、紹介??」


コクンと頷く日向。


「何でも屋さんは商人だ。当然お顔も広いんですよね? お金持ちも知り合いが多そうです」

「ま、まあな。深淵の地アビスで得た珍しい物を直接金持ちに売ったりもするし、深淵の地アビスには時々とんでもないお偉いさんが来たりするから知り合いもいるけど……」


「もちろん、タダでとは言いません。紹介料も渡しますし、何でも屋さんから紹介された方がスポンサーについたら、そこから得た収益の60%を何でも屋さんに譲ります」


 昨日、日向からこの話を聞いて私はびっくりした。得たお金の半分以上も何でも屋に渡しちゃうの?! と。

 でも、日向曰く。そうでもしないと、商人で利益重視の何でも屋が動いてくれる筈がないと。

 確かにそうだよね。


 日向の提案に迷う何でも屋。

ここまでは想定済み。さらに昨日考えた『特典』を私がプレゼンする。


「さらに紹介頂いた場合は、モフモフのプイちゃんをいつでもモフれる権利も与えます!」

「ぷい!!」


 使命感に溢れるプイちゃんの声。どんと来い! とちっちゃな手でお腹をポヨンと叩く。頼もしい!何でも屋は唾を飲んで「ちょっと良いかも?」という顔をしたが、首をフルフルと振り、


「いや、でも……」

「何でも屋さんが商売をされている深淵の地アビスは未だ誰も最深部まで辿り着いた者が居ない。僕たちは訳あって、それを目指します。きっとこの世界に住む住人ならば、最奥に眠る何かを見たいと思いませんか? 僕たちの実力はクロカバの木を切っている時に実証されていると思います。僕たちは、視聴者がワクワクドキドキするような未知の体験を動画配信でお届け出来ると確信しています……!」


 ……た、頼もしい……!

 なんて説得力のあるお言葉。

 流石は我が兄だわ。


 何でも屋はしばらく考え込んだ。

 その間も何でも屋の目の前をプイちゃんがポンヨポンヨと魅力的?に跳ねている。

 すると、ふーっとため息をついて、


「分かった。じゃあ、とりあえず深淵の地アビスへ潜ってみ? それで、動画一作目を俺に見せてよ。それが面白かったら……考えてやるよ」


「な、何でも屋~!! ありがとう、ありがとう!!」

「ぷいい!!」


 私とプイちゃんは嬉しさに抱きしめ合う。

 日向は今までの会話を動画で撮っていたらしく、それを何でも屋に見せつけて「質言は取りましたよ」なんて怖い事を言っている。



 ――こうして、私たちの深淵の地アビス攻略&動画配信の冒険が始まるのだった。


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