神龍の子・プイちゃんとの出会い


 ブラックさんが説明もせずに消えた時は超焦ったけれど、ゲーム経験者の日向がいてくれて良かった。

 ある程度は異世界ミッドランドについて知識があったからね。


 さっきブラックさんから貰ったスマホは、この世界で使えるスマートフォンだった。

 使い方は地球と同じ。電話も検索も出来るし、SNSも出来る。超便利。

(もちろん、この世界しか繋がらないらしいけれどね!)

 他にも私たちの能力値・ステータス情報(レベルは99・能力はカンストしている)や、地上マップも見れる。


 マップを開くと自分たちが居る所が、赤く点滅していた。クロカバという巨木の森林のド真ん中。そして地図の中央にある深淵の地アビスの南側。


「今からアットホームマートへ着換えと食料を買いに行く」


 日向は決意を表わにする。

 そんなに着換えが大事なのかい。


「ここからだと、アットホームマート大森林南通り店が近い」

「地球と店名が似ているね!」


 歩いて10分だと言うので、日向と歩いていけば、あっという間にオレンジ色の外装のコンビニへと辿り着いた。


 外装もそうだけど、内装もコンビニそのもの。

 ただし、売っている物は食べ物以外にも洋服や日用品など、数は多くないけれど色んな物を取り揃えていた。


 日向はアレコレと商品棚を回り、生活必需品を探しては、オレンジ色の買い物かごへと入れていく。


 私も梅と鮭のおにぎりを2こずつ、オレンジジュースのペットボトル2本、ポテトチップスとチョコレートをかごに入れた。


「合計一万3,800エムです」


「「あ」」


 そして、愚かな私たちは会計レジで気が付いたのだ。

 ……お金、持っていないって。


 一旦、商品を全部返して店外へ出る私たち。


「そうだった。たいていのゲームは所持金一万円くらい貰ってスタートするのに、このクソゲーは一銭も貰えないんだった!!」

「ひえー。じゃあ、魔物と戦ったりしてお金を稼ぐの?」

「うーん、地上は雑魚モンスターしかいないんだよ。そいつらを倒して奴らの皮や骨や牙を売っても数十円レベルだ。だから、たいていのゲーマーは初期装備すら揃えられなくて、ダンジョンに潜る前に詰む」

「なんてえげつない……」


 はあ、とため息をつくと、お腹がぐうと鳴る。

 私が鳴れば日向も鳴る。それが双子ってもの。

 お互い顔を見合わせて、


「葵、リンゴを貰ったよね?」

「……はんぶんこ、しよっか?」

 金のリンゴをリュックから取り出した時だった。


 熱い視線を感じた。

 目の前の茂みの中、円らな黒い瞳が二つ。こちらを見ている。

 その瞳は堂々と茂みから出てきた。


 大きさはバレーボールくらい。真っ白なふわっふわの体毛。まあるいフォルム。

 背中にちっちゃなコウモリの様な黒い羽が生えている。あ、体毛で見えにくいけれど、おでこにエメラルドグリーンの石もついているぞ。


「うわあ! かっわいい!!」

「ぷいぃ……」


 ぷい、と鳴いたまるい生き物は元気がない。私の持つ金のリンゴに釘づけだ。

 じーーーーっと、金のリンゴを見つめている。

 日向はこの危機感ゼロの生き物を見つめ、首を傾げる。


「うーん? 地上で見たことないモンスターだね」

「ねえ、お腹空いているのかな? リンゴ食べたいみたいだよ」

「葵の分け前で良ければ、分けてあげたら?」


 つ、冷たいヤツ!

 私は銀の小剣で金のリンゴを半分にする。


 ……初めて武器を使ったのが、リンゴカットとは。

 ブラックさんもビックリだよねー。

 そして半分を日向に分けた後、私の分のリンゴを更に半分にした。


「ほら、お食べ」

「……ぷい!!」


 その子は目を煌かせて、金のリンゴをシャクシャク食べ始めた。

 一生懸命リンゴを頬張る姿はとっても可愛い! そんな微笑ましい光景を眺めながら、金のリンゴを一口齧ってみる。


 ……うん! とっても甘ーい!

 美味しいリンゴだ!!


 あっという間にその子は平らげた。

 更に私の食べかけのリンゴをじーーっと見つめている。


「まだ食べたいの?」

「ぷい!」


「……図々しいやつだな!」


 日向はそう言うと、自分の食べかけをその子に渡した。

 その子は目をキラキラさせて、日向を見上げ「ぷい?」とまるで「食べていいの?」と言っているかのように鳴いた。


「どうぞ」

「ぷいい〜!!」


 その子は日向の周りをくるくる回ると、リンゴを食べ始めた。

 うふふ、満足げにほっぺを膨らませて食べている姿が可愛いな。


『一つ、言い忘れた』


「……ぎゃあああ?!」


 突然。本当に突然よ?

 私の後ろにブラックさんが立っていたのだ。

 さっき感動のお別れをした筈なのに……。

 再会は早かった。


「一等の金のリンゴだが。それはモンスターを一匹手懐けられる効果がある」


 そして、その金のリンゴを頬張る、まんまる真っ白な子をチラッと見てブラックさんは「はうわっ!」と身を反らして絶叫した。


「ぷ、プイ様!! なぜ、こんな所にプイ様が!?」

「ぷいい~!」

「プイ様? この子、プイって言うの?」


 ブラックさんは、あわわ……と口を震わせ、


「プイ様は、深淵の地アビスを守る神龍様の御子。なぜ、こんな地上に……!?」


「ぷい、ぷいぷい!」

「……そうですか、そうですか」


 なになに?

 ブラックさんとプイちゃんは会話出来るの?

 それからも、一人と一匹はぷいぷいと会話を続ける。私にはプイちゃんの言葉は「ぷい」にしか聞こえない。

 話が終わるとブラックさんは私と日向を見つめ、


「プイ様はお昼寝中に迷子になられた。しかし、お前たちをいたく気に入ったので、お友達になりたいらしい。たぶん、金のリンゴの効果だと思うが」

「えっ? 昼寝していて迷子って、おかしくない??」

「日向、突っ込む所はそこじゃない」


 お腹いっぱいになって元気になったらしいプイちゃんは、背中に生えたちっちゃな羽をパタパタと動かした。

 するとなんと! ふわふわと浮いたのだ!


 そして、私の肩に止まるプイちゃん。

 頬に当たる羽毛がふわふわしていて気持ちいい。

 甘いマシュマロみたいな匂いがする。


「ぷいい~♪」

「『おね~たん、ママの所まで一緒に行こ~♡』と言っている」

「ブラックさんが通訳するとキモ……」


「うんうん! よろしくね、プイちゃん!」

「ぷい!」

「じゃあ、プイ様の事、くれぐれもよろしくな!」


 再び、ブラックさんは消えた。

 これからも、こうして時々助けてくれるのかしら??

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