最強双子が異世界で動画配信を始めました! ~動画編集機能を持つモフモフ神龍の子を手に入れたので、攻略がてら動画配信も始めます!

さくらみお

どうやらあの世もこの世もお金が大事らしい


 パパが三億円もの借金をこさえてきた!


 社長をしていたアプリゲーム会社が倒産しちゃったんだって。


 その日から、私こと夏野なつのあおいと、双子の兄の日向ひなたは何不自由ないお金持ちのご子息・令嬢生活から一転、貧乏借金生活を送ることになった。

 豪邸を追い出され、身ぐるみ剥がされ、東京郊外の四畳半二間のオンボロアパートで暮らす事になったのだ。


 すき間風吹くボロアパートで家族四人、白いご飯に塩をかけた物をボソボソと食べる毎日。

 贅沢暮らしが大好きだったママは大号泣するし、パパはそんなママに平謝り。男泣きする日々。 

 

 でもね、泣いたって悲しんでいたって余計にお腹が空くだけで何も解決しない。

 二人はすぐに新しい仕事を見つけて、昼も夜も働き始めた。

 でも頑張って働いても借金の金額が金額だから全然返せない。毎日でたらめに増えていく利子を返すので精一杯な日々。


 睡眠時間も削って働くパパとママ。

 慣れない仕事でクタクタな二人を更に追い詰めるのは、極悪非道な借金取りのオジサマ達。


 オジサマ達は、ジャンプしたって逆立ちしたって出てくる訳ないお金を毎日出せ出せって、うるさいの。

 みるみると元気がなくなるパパとママ。 

 その日も、ここ一ヶ月で10キロは痩せた青白い顔のパパをぴょんぴょんとジャンプさせて、小銭すら奪おうとする借金取りのオジサマ達にアッタマきて、私、啖呵切っちゃったんだよね。


「私がパパの代わりに借金を返す!」って。


 すると、借金取りのオジサマ達はキョトンとした後に大笑い。

 ガキンチョ中坊の私に、何が出来るんだ? だって。


 失礼しちゃう!!


 でもね、借金取りの一人、オールバックの黒髪黒目、黒スーツのニヒルなオジサマだけは笑わなかった。

 そのオジサマが言ったんだよね。


「ならば、体で払って貰おうか。そっちの息子と一緒にな」


 日向は「な、なんで僕までとばっちり受けてるのー?!」なんて、薄情な事を言っていたけれど、家族のピンチだもの。

 日向だって、手伝う義務はあるよね!


 黒づくめのオジサマはその見た目通り、ブラックと名乗った。

 ブラックさんはこう言った。


「二人で異世界ミッドランドの深淵の地アビスの最深層にある『天地無用の石』を取ってこい」


「「……は??」」


 言っている事が意味不明過ぎて、双子ならではのユニゾン起こしちゃった。


「ガキンチョ共、聞こえなかったか? 異世界ミッドランドの……」

「いや、内容は聞こえてますって。私、聴力5.0だから!」

「葵、聴力は視力検査の数値と違うけど」


 なんてゴチャゴチャ言っていると、ブラックさんが私と日向の頭を掴んだ。

 

 次の瞬間。

 オンボロアパートじゃない場所へと飛ばされたのだ。

 だって私たち、先が雲の先で見えないくらい巨大な木に囲まれた大森林の中に居たんだもの!


 ぜん〜とする私に、隣の日向はしれっと、

「あ、ここ異世界ミッドランドだ」と言う。


「日向、な、なんでわかるのー!?」

「だって、僕、このゲームをした事あるから」


 ええっ?!

 ここは、ゲーム世界なの?!?!


「ゲーム名は『アビス・アドベンチャーズ』。異世界ミッドランドの中心にある地下洞窟『深淵の地アビス』を冒険する正統派RPGゲーム。しかし、すでに発売して一年が過ぎるというのに難易度が高すぎてクリアした者がいないという、ゲーム業界では伝説のクソゲーである。ちなみに、このゲームの開発者は父さん。した原因のゲームでもある。なんちゃって」


「そ、そんな笑えないゲームの中に、私たち居るの……?」


 無理じゃん! お家帰る!! と回れ右したが、どこへ帰ればいいのやら。


 目の前には、簡易テーブルにガラガラくじを設置させているブラックさんが居た。


「ぶ、ブラックさん? 何しているの?」


「そこの息子が言った通り、ここは世にも過酷なゲーム世界である。実は、私は借金取りではない。以前に君たちのお父さんに命を助けられた事がある者だ。その恩を少しでも返すために、君たちが楽に冒険が出来る様に今から加護を与えようと思う」


「いや、加護より金をくれ」


「このガラガラくじを引いてくれ。一人一回だぞ!」

「おいこら、話聞けや」

「葵、言葉使いが悪いよ。元お嬢様なのに」


 ブラックさんの意志の堅そうな表情を見れば、ごねればお金をすんなりくれるタイプとは思えなかった。ここは素直に従っておくしかなさそう。

 私はガラガラくじを回した。


 すると、金色の玉が出た。

「おおっ」と感嘆の声をもらすブラックさん。


「おめでとう!! 一等の金のリンゴだ!」

 ブラックさんは、鐘を鳴らし私に金色に光り輝くリンゴをくれた。キレーイ!!


「あ、ありがとうございます!……それで、これは、どんな効果があるんですか?」

「食べると蜜たっぷり。とても甘い」

「それ以外に?」


「それだけだ」


 え?

 金のリンゴを持って固まる私の隣で、日向がガラガラを回した。

 すると、銀色の玉が出た。


「なんと! 今度は二等が出た。君たちは幸運の持ち主だな!」


「……今度はまさか、銀色のバナナとかじゃないでしょうね!?」


「君たちを最強戦士、つまりチートにしてあげよう。息子は魔法使い、娘は剣士のチートの能力を与える」


「……ちょっと! 一等と二等でこんなに差があるのっておかしくない?!」


「まあまあ。一等でも二等でも、強くしてくれるんだったら、いいじゃない」

「でた! 日向の事なかれ発言!」


 ブラックさんが「そーれ!」と掛け声をかけると、あら不思議。

 私たちは西洋風ファンタジーに出てくる様な、戦士の恰好と魔法使いの恰好に変身したのだった。


 私は白を基調としたミニワンピースに黒タイツに白いブーツ。腰に銀色の小剣が鞘に収まっている。マントは青。黒い小さなリュック付き。


 日向は白いシャツに茶色のズボン、こげ茶のブーツ。マントは赤でお揃いの赤い三角帽子。カーキの肩掛け鞄。銀の杖を持っていた。


 可愛い衣装にテンションが上がった私。小剣を抜いて、一回転しすれば、ふわりとマントが翻った。


「衣装が可愛い! 剣も見た目より軽くて持ちやすーい! 実感ないけれど私たち最強になったんだよね? これならゲームクリアも余裕で出来るのかな~?」

「……」


 返事がなく、口に手を当てて考え込む日向。

 それから今貰ったばかりの自分の鞄をガサゴソ。

 何やら不満がある様子……。


「どうしたの? 衣装が気に入らないの?」

「……ブラックさん、着替えと食料はないの?」

「ない」

「そんな! 今から冒険に出るってのに、初期アイテムが衣装だけ? あり得ないでしょ?!」


 ……ええー?

 衣装と能力を貰っておいて、着替えや食料まで要求するとは……図々しい。


 しかし、やっぱりね。

 ブラックさんには、ゴネても無駄だった。

 スーンとした顔で、


「欲しければ、アットホームマートで買うんだな」


 そう言いながらブラックさんは私に白と黒のスマホを二台差し出した。

 それをしっかりと受け取った瞬間、ブラックさんの体がすうっと透けていく。


『……どうやら時間の様だ』


「え? なんの?」

「ゲームオープニングによくある台詞だね」


『私は、いつでも君たちを見守っているぞ、さらば!!』


 ブラックさんは消えた。

 説明も能力も何もかも、全て未説明のまま。

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