悪夢(エピソード主役:タニア)
老婆「ほら、目を逸らすんじゃないよ!」
タニアの背後から老婆の声がする。
タニアの目の前には水晶球がぶら下がっている。
水晶球には、甘いはちみつ亭の2階にある窓が映っている。建物の近くの木の上から見ているらしく、窓の中の様子は分からない。
老婆「少しでも見逃したら…分かってるだろうね?」
タニアの身体は十字架に拘束されている。
手足はおろか、頭まで固定されていて、水晶球から目を離すことなど出来はしないのに、老婆はさらに脅迫してくる。
タニア「うぅ…」
タニアの口にはパイプを咥えさせられていて、まともに声を出すことも出来ない。
老婆が突然笑い声を上げた。
老婆「ひひひ…。今、
タニア「??」
タニアが見ている水晶球には、何の変化も無い。
老婆「あぁん? 見てなかったって言うのかい?!」
タニア「ひっ…!」
老婆「悪い子には、おしおきをしないとね…?!」
タニアの身体が前後に揺すられる。
タリア「ねえ、タニア…!」
タニア「やめて…!ゆるして…!」
しかしなおも身体の揺れは止まらない。
タリア「タニア、起きて!」
タニア「はっ?!」
タニアが気付くと、タリアがタニアの身体を揺すっていた。
タリア「大丈夫? すごくうなされてたけど」
タリアが心配そうにタニアの顔を覗き込んでいる。
タニアはちゃんと自分のベッドの上にいた。
タニア「あぁ…。うん、だいじょうぶ。ちょっとひどい夢を見ただけだから…」
あの老婆は、タニアが囚われていたときに実際に居た存在だ。水晶球も十字架もだ。
ただ、タリアが傷を負ったときの会話は、実際には無かったことだ。そもそもタリアが怪我をしたことも知らなかったのだから。
きっと眠る直前にタリアの傷のことを考えていたせいで、捏造してしまったのだろう。
タニア「あ、あんたのせいなんだからね…!」
タリア「なんでよ」
タリアは軽い口調で文句を言って、タニアを優しく抱きしめた。
そうされて、タニアは自分が震えて涙を流していることに初めて気付いた。
タニア「あ…」
タリア「大丈夫だから…。お姉さまだけじゃなくて、わたしもあなたを守るから…」
しばらく、タニアはタリアに抱かれるままになっていた…。
・・・
タニア「もう、いいかげんやめてよね。おねえちゃんにされるなら、いくらでもいいけど」
しばらく経って、タニアはタリアの耳元に囁いた。
タリア「ふふふ、そうね。お姉さまじゃなくてごめんね」
タリアは微笑んでタニアから離れた。
タニアの震えはもう収まっていた。
タニア「そうよ、あんたなんか全然おねえちゃんにかなわないんだから!(…でも、ありがと)」
タニアは減らず口を叩いた後で、小さな声でお礼を言った。タリアも小声で
タリア「(どういたしまして)」
と返した後、普通の声でタニアの減らず口に応戦する。
タリア「まったく、世話のかかる妹を持つと大変だわ」
それにはタニアが気色ばんだ。
タニア「なっ? 妹はあんたでしょ?!」
タリア「どうかしらね? みんな、わたしの方が姉だって思ってるんじゃないかしら? グラーフさんもそうだったでしょ?」
タニア「ちがうもん!あたしなんだもん!」
村人たちに双子だと説明している手前、どちらが姉でどちらが妹かは、一応決めてあった。
先にこの世に存在していたタニアが姉で、後からこの世に現れたタリアが妹だ。
しかし、しっかり者で働き者のタリアが姉で、幼い言動のタニアが妹だと思われている節が無きにしもあらずであった。
(ついでに、ミシアに対する言動となると2人ともポンコツになるのは、そっくりとの評判)
タリア「だったら、姉らしいところを見せてよね。ほら、もう朝なんだから早く起きなさい」
タニア「言われなくても、起きるもん!」
タニア(15歳・成人)はベッドからガバッと飛び降りた。
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