宿泊登録(エピソード主役:タニア)
えーっと、次はどうするんだったっけ?
タニアはおろおろしながら考えた。
酒場としての接客は毎日やってるから分かるけど、宿屋の客は滅多にいないので、どうすればいいのか、よく覚えていない。
またもおろおろと左右を見回して、ライラの横の、カウンターに置いてある2台の魔法具『ハップ』が目に入った。
そうだ、宿泊登録だ。
タニア「こっ、こちらでうかがいます…」
タニアはカウンターの内側に入り、ハップの所まで移動した。
でも宿泊に関する使い方はまだ教わっていない。なにせ、その使い方は滅多にすることが無いから。
ハップの横に立っていたライラを見上げると。
ライラ「まずは~、パスポートを持っているかどうか、お聞きして~。お持ちだったら~、ハップにそれを見せるだけよ~」
ハップには、紙などに書かれた文章を読み取る機能がある。
パスポートは持ち主の名前や町に出入りした日付を記録している冊子で、旅行に必須というわけではないが、慣れた旅人なら持ち歩いていることが多い。
パスポートが無かったら、必要な情報をいちいち全部書いてハップに見せる必要があって、面倒なのだ。
タニアはライラが言ったことを男性に向かってオウム返しに訊ねた。
タニア「…パ、パスポートは、持ってますか?」
男性「はい、持ってますよ。ということは、入村登録もこちらで出来るということでしょうか?」
男性は背負い袋の中からパスポートを探しつつ、質問してくる。
しかしタニアはおろおろと首をかしげるばかりなので、ライラが代わりに答えた。
ライラ「はい~、その通りです~」
男性はパスポートを取り出した。表紙には名前や職業を書く欄があり、名前は「グラーフ」、職業は「人形遣い」と書かれている。
グラーフはパスポートの最後のページを開くと、ハルワルド村の名前と今日の日付を書き込んだ。
その前の行には、パーマスの町に入った日付と出た日付が書かれている。
このようにして旅の記録がパスポートに残るのだ。
タニアはパスポートを受け取り、入村登録用のハップの前に置いた。
するとハップは「はぷはぷ。ふすふす」と鳴き声(?)を出しながら、それを読み込んだ。
これで、グラーフの名前と、パーマスの町から来てハルワルド村に入ったことがハップに登録された。
ライラ「それから~、この宿泊用紙に、パスポートから転記するの~」
ライラは宿泊用紙を取り出してタニアに渡す。
タニアはグラーフのパスポートを見ながら宿泊用紙に記入していく。
タニア「えーっと、名前は…グ・ラー・フ。職業は…にんぎょう…?」
グラーフ「人形遣いと名乗っています」
タニア「宿泊期間は…?」
ライラ「とりあえず~1週間だそうね~」
タニアは文字は一応覚えたものの、まだ素早く読み書きするのは難しかった。よく使う単語(酒場のメニューや一番近くの町の名前(パーマスの町))なら、ちゃんと判別できるのだが。
タニアがたどたどしく転記し終わると、グラーフは改めて挨拶した。
グラーフ「はい、俺はグラーフと言います。職業は人形遣い。どうぞよろしくお願いします」
タニアが宿泊用紙を宿泊登録用のハップの前に置くと、そちらのハップも「はぷはぷ。ふすふす」と鳴き声(?)を出しながら、それを読み込んだ。
・・・
ハップとは、情報を記録する魔法具である。外見は黄色くて、四角い箱に動物の顔や短い手足が付いているといった意匠だ。これはゾウという鼻の長い動物を模していると言われている。
お金を保管する金庫の機能もあるので、ある程度の規模の店なら1台は置いてある。国に納める税金もここから計算されるので、ハップがある店というのは、信用がある証でもある。
甘いはちみつ亭に2台あるハップのうちの1台は甘いはちみつ亭の商売の記録をつける為のもので、もう1台は村の人口の増減(つまり出生したり死亡したり、旅人が来たり出たり)を記録する為のものだ。
後者は、普通の村なら村長の家に置いてあることが多いが、ハルワルド村に来る旅人なら必ず甘いはちみつ亭に泊まるし、旅人以外で記録する必要が生じることは滅多に無いので、ここに置いてあるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます