結婚を考えるお年頃

タニア「ねえ、サティは結婚って考えてるの?」

ふと、タニアはサティに聞いてみた。

サティはタニアの2才年上の17歳だから、成人してから2年経っているということになる。


サティ「そうですわね。いつかは結婚しなければならないとは思っていますが、わたくしのような高貴な身分に釣り合うお方など、なかなか居りませんもので」

ティック「高貴な身分って…。たかが村長の娘だろうに」

ティックが呆れたように口をはさんだ。


サティ「黙らっしゃい!高貴というのは、胸の大きさ女性の魅力のことですわ!ご覧なさい、あの神々しさを!」

サティは、カウンター席の内側の厨房で大きな胸を揺らしながら料理を作っているライラの方を、両腕を掲げて仰々しく差し示した。


ライラはサティに気付いて、(サティの話を聞いていたのかいないのか分からないが)いつものようにのんびりとサティに挨拶した。

ライラ「あら~、サティちゃん、いらっしゃ~い」

サティ「はいっ、お邪魔しています、ライラ様!」

サティはライラに向かって深々とお辞儀をしてから、タニアとティックの方に向きを戻した。


サティ「やはり、わたくしの結婚相手は、ライラ様のような高貴なお方が相応しいですわよね~」

ティック「おい、ライラさんは女だろうが」

タニア「それに、ライラさんにはライル先生がいるし」

サティ「そうなのですわ~」

妄想に浸ってうっとりしていたサティだが、容赦なく冷や水を浴びせられ、がっかりして落ち込んだ。


3人は酒場のカウンター席の隅にちらりと目をやった。

そこには今は誰も座っていないが、ライルの指定席のような扱いになっている事も周知の事実である。

ハルワルド村の小さな学校の教師であるライルは、ライラと恋仲であると周囲から認識されていた。

しかし、具体的な結婚につながるような話はタニア達にも全く伝わってきていない。

ライラは今年30歳。結婚を考えるなら、焦りそうな年齢のはずなのだが。


・・・


他に結婚を考えそうな年齢の身近な女性というと…。

タニア「おねえちゃんは誰と結婚するのかな?」

タニアは何気なく口にした。が。

ティック「ミシアかぁ。ミシアはなぁ…」

サティ「あの子は全然駄目ね。てんでお子ちゃまなんですから」

即座に駄目出しされたのだった。


3人の脳裏に、ウキウキしながら冒険に出かけるミシアの様子が浮かんだ。

今の年齢になっても、昔と全く変わっていない。

色恋に興味があるとは、欠片も思えない。


タニア「で、でも、もしかしたら、おねえちゃんの冒険者仲間パーティーに良い人がいるかもしれないわよね?」

サティ「ミシアのお仲間の男性の方って、2人いらしたかしら?」

タニア「うん。アーキルさんとケニーさんね。でもアーキルさんにはコノハさんがいるから…」


普段の様子を見るに、アーキルには特定の誰かを好きな気配は無い。強いて言えば、ルディアのことをよく気にかけている。しかし恋愛感情というより、親が子を心配しているみたいな感じだ。

対してコノハの方は、アーキルを意識しているのがバレバレだ。当人は隠している(もしくは自認できていない)ようなので、皆気を利かせて気付かないフリをしているが。

ついでに言えば、この村に出入りしている山賊団(みたいな名前を名乗っている)のリーダーの女の人も、アーキルに気がある節がある。


サティ「じゃあケニーさん?」

タニア「ケニーさんはねぇ…。頭が良くてやさしい感じの人だけど、ルディアさんの方が似合ってる気がするのよねぇ」

タニアには、ルディアとケニーは良いカップルに思えた。

ミシアとケニーだと、活発なミシアがひとりでぴゅーっとどこかに飛んで行ってしまいそうだ。全然カップルじゃない…。


ティックは話を聞いてルディアの顔を思い出した。

ティック「あぁ、あの人か。すごく綺麗な人だよな。自称高貴な誰かと違って、なんか気品があるっていうか…」

サティ「ほほ~う?」

サティとタニアはティックをじろっと睨んだ。

ティックは慌てて話題を変えようとした。


ティック「そういやよ、タリアはどう考えてるんだろうな?」

タニア「どうって…」

サティ「ははーん、これはまたストレートに来ましたわね?」

ティック「ち、ちげーし!話の流れから次はタリアかなーって思っただけで、俺は別に是非とも知りたいとか思ってるわけじゃねーし?!全然思ってねーし?!」


ちょうどそのとき、2階の掃除を終えたタリアがやって来た。

タリア「あら、珍しい組み合わせのお客さんが来てるわね」

ティックの背筋がびくぅっと伸び上がる。


タリア「なになに? みんなで何の話をしていたの?」

タニア・サティ・ティック「何でもないわ」「何でもありませんわ」「何でもねーよ!」

タリアの質問に、タニアは素っ気なく、サティはにやにやしながら、ティックは慌てながら答えたのだった。

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