タニアとタリア

タニアとタリアの関係は、村人達には双子であると説明してある。


確かに2人の外見はそっくりだ。

分かりやすい見分け方は、髪型。サイドテールが左右対称で、左側を結んでいるのがタニア、右側を結んでいるのがタリアだ。

他に分かりやすいのは、服装。タリアは一年中冬も夏も長袖の服を着ているが、タニアは短い袖の服も着る。

タリアが常に長袖の服を着ているのは、左腕の肩から肘にかけてにある、大きな傷跡を隠す為だ。まるで獣に切り裂かれたかのような傷で、タリア自身は誰かに見られても平気だと思っているものの、同情を誘ったり余計な心配や詮索をされたりするのが嫌なので、隠しているのだ。


しかしタニアとタリアの関係は、本当は双子ではない。

村人達もそれは分かっている。なにせ、村人達はタニアが生まれたときから知っているのだから。生まれたとき、タニアは双子ではなかった。

しかし3年前、ミシアがもうひとりのタニアを連れてきた。

そして、「タニアは双子だった、今まで村にいたタニアはタリアだった」と説明した。村人達は、実際に何があったかは分からなかったものの、それを受け入れた。

それ以来、村人達はタニアとタリアを双子として扱っているのだった。


・・・


実はタリアは、魔法によってタニアを複製して作られた人間である。

作られたと言っても、普通の人間と何ら変わりは無い。ただ存在の始まり方が違っただけだ。


ミシアが8才・タニアが5才のとき、ミシアとタニアは仮面の男に誘拐された。

1か月ほどで2人は救出されたものの、実はこのとき助け出されたタニアは、魔法で作られた複製(タリア)だったのだ。

誘拐されたままだったタニアが7年後(今から3年前)に救出されるまで、ミシアと共に救出されたタニア(タリア)は、ずっと本物だと思われていた。(そもそも疑うべくも無かった。外見も記憶も性格も、全て全く同じだったのだから。実は左右を逆にして作られていたので、医士だけは心臓の位置が何か変だと気付いていたが、さすがに魔法による複製だとは思いもしなかった)

そして、ミシアと共に救出されたタニアが複製だという真実が分かったとき、偽物だからと言って迫害したり捨てたりするような事は無く、ミシアは彼女にタリアという名前を与え、妹が増えたと言って歓迎したのだった。


ミシアと共に救出されたタニア(タリア)は、6才になってからハルワルド村の学校に通い始めた。

一方、誘拐されたままだったタニアは、その間、洗脳され、呪いの魔法(タニアとタリアの意識をつなぐ魔法)を修得させられており、学校に通うことなど叶わなかった。

救出されたときに洗脳は解けたものの、成長を奪われた7年間によって、タニアには年齢相応の知識が不足しており、精神も幼いまま止まっていた。

そんなタニアに、タリアは自身が学んできたことを伝えようとしてきた。その甲斐あって、タニアは文字の読み書きを覚え、簡単な計算も出来るようになった。甘いはちみつ亭の仕事もだいぶ覚えた。

さらにタリアは複雑な文章の読解や店の収支の計算方法や国の歴史等を教えようとしているが、タニアにとってはそれが難しくて最近の悩みの種であった。


・・・


タリアがタニアに親切にしようとしていることは、タニアにも分かっている。


タリアを憎むように仕向けられてきた洗脳も、今では解けている。

それでも、ちゃんと学校に通い、友達と遊び、大好きなミシアおねえちゃんと共に過ごしてきたタリアを、タニアが羨ましく妬ましく思う気持ちがあるのは止められない。


本当はミシアと共に救出されたのは自分であるべきで、学校に通うのもおねえちゃんと共に楽しく過ごすのも自分だったはずなのだ。

誘拐犯は、どうして複製人間を作るなんてことをしたのだろう…?(それは今でも謎のままである)


そういう思いが、タリアへ向けた暴言として時々発露してしまうのだった。

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