退屈・1(エピソード主役:タニア・タリア)
タニア「あー、ヒマねー…」
タニアは両腕をだらんと下げたまま、テーブルに突っ伏していた。
甘いはちみつ亭の1階は酒場になっているが、今は(厨房にいるライラを除けば)タニアしかいない。
夕方になれば、仕事を終えた村人たちがやってきて、忙しくなるのだけれど。
タニア「あー、タイクツ……」
タニアは再び呟いた。
タニア「おねえちゃん、早く帰ってこないかなー…」
タリア「お姉さま達は、昨日出かけたばかりでしょ。そんなすぐには帰ってこないわよ」
テーブル席にはタニアしかいないと思っていたのに、タリアから返答があった。
タニア「わかってるわよ、そんなこと。っていうか、あんたいたの?ひとの独り言に口を出さないでくれる?それよりちゃんと仕事しなさいよね」
タニアはテーブルに突っ伏したまま、タリアの方を見もせずに返事をした。
タリア「…ずいぶんな言い様ね…!」
タリアはタニアのすぐ横に立ち、怒りで腕をプルプルと振るわせる。
タリア「わたしは2階のお掃除を終えてきたのよ。あんたは今勉強の時間でしょう?それなのに、さっきから暇だの退屈だのと愚痴ばっかり言って、全然進んでないじゃない。まったくもう…」
タニア「…だって、タリアが出した課題なんて、やる気おきないんだもん」
タニアは頬をぷーっと膨らませる。
タリア「だったら、学校へ行く? ライル先生の方が教え方は上手なんだし。スカリィちゃんも喜ぶわよ」
タニア「イヤよ、小さな子供にまざって勉強するなんて!」
ハルワルド村では、6才になったら学校へ行って文字の読み書きや計算の仕方などを教わる。
今年で15歳(クラスタリアでは成人とされる年齢)になったタニアは、さすがに今さら学校へは行きたくなかった。
スカリィは村長の家の次女で、今年7才。ちょうど就学している年齢だ。ミシアやタリアにも懐いており、もっと幼い頃は舌足らずな声でミシアやタリアのことを「ミーシャおねーしゃま」「ターニャおねーしゃん」(タリアは当時タニアの名で呼ばれていた)と呼び、可愛がられていた。
タニアはテーブルから身体を起こして、タリアを睨みつけた。
タニア「なによ、自分がちょっと勉強できるからって!」
タリア「そんなのじゃないわ。わたしはただ、わたしが知ってる事をあんたも知っていたいんじゃないかと思って…」
タニア「ふんっ、自分だけ学校に行ったからってエラそうに!本当はあたしが行くはずだったんだからね!」
タリア「!!…それは…」
タニアはますますヒートアップして立ち上がった。
タニア「あんたなんて、魔法も使えないくせに!」
タニアは魔法を使えるが、タリアは使えないのだ。
(冒険者は魔法を使える者も多いが、普通の人間、特にオラク人は魔法を使えない者も多い。その意味ではタリアも普通なのだが)
タニアは自らの魔法を発動した。
魔法の光る細い糸がタニアから伸びて、タニアとタリアを結ぶ。
タニア「えいっ!」
タニアは自分の手首を自分の2本指で叩いた。
タニア・タリア「痛っ!」
タニアとタリアは同時に痛みを感じて小さな悲鳴を上げた。
タニアの魔法は、意識をタリアと結びつけ、感じた感情を相手に伝えることが出来るというもの。
タニアが自分で自分を叩くと、その痛みがタリアに伝わるというわけだ。
しかしこれではタニア自身も痛いわけで、このような使い方は自爆に他ならない。そもそもすぐ近くに相手がいるのだから、魔法など使わずに直接叩けばいいのだ。
それでもこの魔法を使うのは、それが唯一、タニアに出来てタリアに出来ないことだからであった。
タニア「タリアのバカ!ばーかばーか!あんたなんか消えちゃえ!」
タリア「あっ、タニア…!」
タニアは魔法を切って、涙目になりながら、酒場の外へ走って出ていった。
タリアはそれを見送った。同じく悲しそうな顔をしながら。
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