第12話:動かぬ右手
スリクさんがアヤを連れて戻ってくると、アヤは第一声、
「シオン君、何か自分の体を代償にして唱えるような魔法とか使ってないよね?」
と、普段はしない険しい顔をして聞いてきた。ジーッとこちらを見ている水色の瞳は、回答するまで目をそらすなと言っているようにも見えた。
「アヤに教えてもらったことがないし、そんな魔法は知らないから・・・使ってないと思う。少なくともミュリナは代償はあるとは言ってたけど、すすんでそんな危ないことやらせてくるような子だとは思えなかった。」
白銀の髪を靡かせていたあの精霊の事を考えてみるが、いくら緊急事態とはいえ、そこの説明を省くような子ではないだろう。そう思った。僕はミュリナと話したこと、起こったことを二人に話した。二人は少し目を大きく開いて驚いた素振りはしていたが、最後まで説明を聞いてくれた。
僕の説明を聞き少し考え込んだ後、アヤは、「少しさわるね?」と言って、僕の手を五分くらい揉みほぐすみたいにしてみたり、押してみたりしていた。(押されてる感覚などはあったが、いつもより感覚が鈍いような気がした。)
が、しばらくして短いため息を吐き、
「・・・とりあえず、その話が本当なんだとすると、二度とてが動かなくなる。とかでは無いと思う。と言うかシオン君の魔力の回復の仕方なら三日有れば治るんじゃないかな?多分魔力欠乏症だろうし。」
「それにしては、少し症状が違うような気がするが?」
スリクさんが眉をしかめてアヤに意見する。ここにいる間にアヤに読んでもらった本のなかに、魔力欠乏症に関する本が有ったことを思い出す。確かにスリクさんの言うとおり魔力欠乏症とは、本来手足から少しずつ感覚が鈍く痺れていくような症状が特徴で今回のように特定の部分が感覚が全くなくなると言うことは書かれていなかった。
「一応理論的には起こり得ることだって、、、学園で聞いたことがあるのよね。それに今回の話しは精霊が関わってる訳だし私たちの価値観だけで判断できないところもあるの。」
そう言って、アヤは『魔法と医術』と言う本を机に広げた。この世界では治癒魔法が有るため、僕のいた世界ほどではないが、薬や医療が普及しているらしい。もっとも、僕は小学生だし難しいことは分からないけれど魔法が絡んだりするとなにか僕の世界とは違うことが書かれていたりするのかは気になる。
そんな思考を巡らしていると、目的のページを開き終えたらしいアヤは「ほら、これ。」と言って僕とスリクさんに、本を見せてきた。
魔力欠乏症について
人にはそれぞれ決まった量の魔力が体内をめぐっており、その魔力を使いすぎると起こりうる現象。主に魔術師に多い症状であり、魔法を使った後、急に意識を失う場合と、手足から徐々に痺れて動かなくなっていく症状の二つのどちらかが起こる場合が多い。
過去に例外で何名か特定の体の一部だけ感覚を失うものもいた。
最後の一文がまさにいまの僕のことを指していると言うことで考えて良さそうだ。続けて治療法の欄には、しばらく魔法を使わず生活すること。とだけ書かれていた。魔力回復の薬なんかで回復するのはダメらしい。
「これは学校で習った話なんだけど、魔力回復のポーションでこの状態の体の魔力を回復すると、完全に空っぽになったところに大量の魔力を流し込むことになるから、体が傷ついたりするらしいのよね。」
僕の考えを読んでか、アヤが補足をいれてくれる。のどが渇いてるときに大量の水を一気に取り込んではいけないと聞いたことがある。それに似ているのかも知れない。
何はともあれ、安静にしておくこと。しばらくは訓練も中止。一週間症状が続く場合は医者にかかる。というお達しを受け、この話は終わったのだった。
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