第9話:VS王級魔物グリフォン (一部内容修正)
side:シオン
吹き飛ばされたスリクさんの胸には、大きな爪の引っかき傷ができていた。
「おいおい、こりゃどういうことだ?」
暢気そうに話す声とは裏腹に、スリクさんの目は鋭かった。その目は先ほどの遊びの感覚ではいられない、と言うことを物語っていた。
視線を蜂のほうに向けなおすと、蜂が息絶えているのが見えた。おそらくスリクさんの最初に喰らった一撃の時点で瀕死の状態だったのだろう。そもそも、蜂の攻撃だとするなら爪の後が残る攻撃なんてないはずだ。・・・だとするならさっきの一撃は一体。いやな予感がした。
「シオン。」
「何ですか?」
「逃げろ。とりあえず森から出て助けを呼べ。あれはここにいていい存在じゃない。」
どうやら嫌な予感は当たっていたようだった。スリクさんの言葉が終わると同時に、蜂の死体のすぐ後ろの茂みから一体、三メートルほどもある、赤い鳥獣が出てきた。鳥のような顔をした馬に翼が生えたような魔物がでてきた。・・・たしか家にあった本のなかに書いていた。王級魔物グリフォン。
明らかに先ほどの蜂たちとは違うオーラを放っている。スリクさんが逃げろと言うほど、ありえないほど強い魔物襲撃。きっとここにいてもスリクさんの邪魔になるだろう。対魔物との戦闘になれていない僕を庇いながら戦うことは、いくらスリクさんといえど困難だろう。しかし、スリクさんはさっきの不意打ちで軽傷とは言えない傷を負っている。このままにしておくと無事では済まないだろう。そこまで考えて、さらに最悪の事態が起こっていることに気付いた。
「スリクさんすいません。どうやら言われたこと聞けないみたいです。」
「・・・みたいだな。」
ほんとに今日はどうしたんだろう、と言うくらいついていない。よりによってこのタイミングで後ろにも同じ奴が出てくるなんて。仕方なく僕は、黒炎岩の剣を構える。
「スリクさん、少しそこで大人しくしてて下さいね?」
「っ!!馬鹿言え!お前に任せといて俺は何もしないなんてそんなことできるわけ無いだろうが。」
「じゃあ聞きますけど!その体でスリクさんに何ができるんですか!?」
普段は出さない大声で怒鳴り付けると、さすがに状況を受け入れたのかぐうの音も出さなくなった。
まぁ、状況がやばいことに変わりはないのだが。それでも、
「安心してください。無策なわけではありませんから。」
まぁどこまで上手くいくかは、分からないけど。最後に心の中でそう付け足して僕は空中に『スレイムホール』(激しい音と光を放ち爆発する魔法)を打ち上げる。それから約二秒後頭上で爆音がした。これで運がよければ誰か気付いてくれるだろう。それにここまでの爆音を出せば、家からは1キロも離れていないからきっとアヤなら来てくれるだろう。いつも通りならアヤは起きていてもおかしくない時間なのだから。
「さてと。」
ここまではいい。何故かこの二匹が大人しくしていてくれていたから。ただ、いつまでもこの状況が続く訳がない。
― キシャー -
案の定二匹のグリフォンは、僕に向かって爪を振り上げてきた。思ったより攻撃が速く、僕は緊急回避をする。正直スリクさんの剣撃より速いかもしれない。試しに僕は『バリス・マリノ』(片手剣サイズの氷で生成した槍を相手に飛ばす魔法。中級魔法)を飛ばしてみる。グリフォンは急な攻撃だからか身じろぎもし無かった。正確に頭を狙ったからもしかしたら・・・、そう思った僕の思いは一瞬にして霧散した。
「・・・何で?」
確実に頭を狙ったはずの、当たったはずの氷の刃はグリフォンの毛に少し触れただけで消えてしまった。状況が理解できずにスリクさんのほうを見るが、スリクさんは出血が多いためか、顔色が悪く苦しげに目を閉じてしまっている。それは、僕に時間稼ぎすらする余裕さえも残されていないことを物語っていた。
「こんな化け物を倒せって言うんですか・・・。」
自分に問いかけてみるつもりで聞いてみるが、うんできる気がしない。おまけに逃げられる気もしない。これはもしかして、完全に死んじゃう条件そろってたりしないか?背中に冷たい汗が伝う。
ただ、僕は小学校でも大人しい性格ではあったが、自他共に認める、
「諦めの悪い奴なんですよ!!」
声とともにグリフォンに向かって斬撃を飛ばす。今度も頭を狙う。その瞬間に僕の後ろにいるもう一体のグリフォンが爪を向けてくる。
僕はその動きに合わせて、目の前のグリフォンに追い討ちをかける。どうやら剣での攻撃は通るらしく、グリフォンは後ろに飛びのく。僕は、スリクさんに教えてもらっていた技の中で一番強いと記憶している剣技を繰り出す。ここ最近教えてもらい始めたものだから、上手くいくかは定かではないが。
「ユナタ剣術『氷雨』(ユナタ剣術中級剣技相手に対して無数の刃を飛ばす。)」
まともに食らったらひとたまりも無いだろう。グリフォンは、最初のいくつかの斬撃は見事に避けて見せたがしばらくすると甲高い悲鳴にも似た声を出し息絶えた。僕はそれを確認し後ろを振り返り、もう一体も同じ技を浴びせようとした。しかし考えが甘かった。
本当に我ながら甘すぎた。敵の目の前で使った技を、それもまだ完成していないと言うのに二度も使う何て。
グリフォンは知能が高いそのことを配慮していなかった。スリクさんが教えてくれていなかったからと言って、それくらいは気づくべきだった。スリクさんは、王級に位置する実力者だ。
そんなスリクさんに気付かれないように不意打ちができるような奴に、こんな甘い方法が通用するだろうか?そんなの考えなくても分かる。
「いっつ!」
無慈悲な爪の攻撃を受け僕は地に足をつく。肩から血が出ている。こんな大量の血を見たのはこれが初めてかもしれない。場違いもそんなことを考えながら僕は後方に下がろうとする。
しかしそれをさせまいとする様に、グリフォンはもう一撃僕に追撃をしてくる。・・・避けれない。これを喰らえば間違いなく致命傷だろう。僕は、スリクさんに向かって中級回復魔法『フリスト・ヒアリ』を飛ばす。おそらく、グリフォンはスリクさんが死んだと思っているはずだ。そうだとすれば、傷さえ直すことができれば、スリクさんだけでも助かることができるはずだ。
スリクさんの胸元の傷がふさぐと同時に、グリフォンの爪が僕の胸に触れる。・・・はずだった。どう表現すればいいのかは分からないが、時間が止まったことだけは分かった。正確に言うと僕以外の時間が。その状況を把握すると同時に、聞きなれない声が聞こえてきた。
「私の主人に何してくれてんのかな?こいつは?」
声のするほうを向くと小学生低学年くらいの身長の、髪の長い女の子が立っていた。
「君は?」
そう問いかけると、不意に彼女は不機嫌そうな顔をした。
「私は時空妖精。名前はミュリナって言うの。いつまでたっても見つけてくれない上に、なんか様子見てたら殺されそうになっていたから助けに来てあげたんだよ。」
「ちょっと待って。時空妖精なんて存在するの?」
僕がアヤの聞いたのは、四大属性が存在してそれ以外の属性は無属性として扱われる治癒魔法と肉体強化魔法が中心だと聞いていた。それ以外にあるといえば、司るものと呼ばれる人しか使えないはずだ。
「その司るものがあなたなんだよ。神山シオン君。」
考えていたことが口に出ていたらしい。ミュリナが僕の疑問に対しての解答を提示してくれる。
「・・・ほんと?」
「ほんと。」
「嘘じゃない?」
「そんなわけ無いでしょ?何で私が嘘つかなきゃいけないの?」
「うん。それもそうだね。ただいきなりそう言われても信じられなくて。」
ほんといきなりだ。この世界に存在するトップクラスの冒険者達と肩を並べる能力を持っている。と言われて、はいそうですか。って受け入れられる人がどこにあるだろうか?戸惑う僕を無視してミュリアは話を続ける。
「まぁいいや。今はこの状況を抜け出すことが、最優先だよね。本来なら君みたいな四大属性以外を使える子は、自分で魔法を作るんだけど今回はそんな時間は無いから特別に私が、力を貸してあげるよ。当然、デメリットはあるけどね。」
「え?でもこいつ魔法は効かないんじゃ?」
「それは完全魔法ならの話だよ。これからわたしが使うのは、半物質魔法だから問題ないよ。」
そう言ってミュリアは微笑んだ。
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