第7話:あれからしばらく
side:シオン
最初の訓練から一週間経った頃、僕は中級の魔法を無詠唱で使えるようになっていた。(魔法の数は初級と比べ物にならないのから、説明は割愛する)剣術のほうもスリクさんの動きについていける程度には上達し、何の不便も問題もなく力をつけていた。しかし、
「何にも分からない・・・。」
ようやく寒い季節デグニが暦の上で終わったその日、(ちなみにそれは月が替わったことを意味するのだが、今の季節は地の月と言うらしい。)アヤがリビングでそういいながら突っ伏していた。
「一体どうしたの?」
一応気になったので聞いてみたところ、悩んでいた原因は僕だったようだ。
「うーん。シオン君の周りについてくれてる妖精がもう一人いるってこの前言ってくれたじゃない?なのに魔法の訓練をしていても治癒魔法も、水属性以外の魔法も目立ってすごいことはないからさー。・・・いや、普通の人よりは全然強いんだけどね。」
そう言えばそうだった。確か武器屋のおばあさんが言ったんだと思うが、そんなことを言っていた。
「まぁ、気長に待ってればいつか出るのではないかなと・・・。」
「私が気になるの!!」
「あ・・・、さようですか。」
そういうことか。確かに気にならないことがないこともないが、急ぐことはないと個人的には思うのだが。
「気長にって言うのはあまりいい判断でもないぞ。できるだけ早く見つけておかないと、自分の戦い方が大きく変わったりもするからな。」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだよ、考えてみろ。お前も剣術の技一つ覚えただけでどれだけ変わった?最初は俺に対して斬撃だけで攻撃してたのに、今では遠近どちらからも攻撃できるようになってるじゃないか。」
「始めから、斬撃を飛ばせる時点で異常だけどね・・・。」
アヤの呟きはスルーするとして、確かに戦い方が変わってくるならば少し急いだほうがいいかもしれない。
「まぁ、無理に調べようとしても出てくるもんじゃないからな気にしなくてもいいだろう。」
「じゃあ気長に待ってます。」
「じゃあ、そろそろ訓練に行こうか?今日は中級呪文の無詠唱だったかな?」
「うん。」
アヤの疑問系に少しスリクさんが呆れ顔ようだが、スルーしておく。・・・ここで言ってしまうと訓練で何をされるか分かったものじゃない。
「よっし。じゃあやろう。時間がなくなっちゃう。って言ってもシオン君の上達速度異常なんだけどね。今日無詠唱できたらもう治癒魔法は、私には教えられないし他もこのペースで行くと来週には上級も全部使えるようになってそうだもんねー。」
「剣術は剣術で、あと少ししたら上級くらいの実力は付くだろうし。・・・いや、もうそのレベルには到達してるかもな。現に今手を抜いたり油断なんてしたら一本とられそうだ。」
「二人とも僕のこと買いかぶりすぎだよ。」
「「そんなことない。むしろその反応が異常なんだ(よ)。」」
二人仲良く声をそろえて言う二人に何も言うことができず僕は話題をそらすため、先に庭に出ておくことにした。
・・・・・
side:アヤ
訓練のため外に出ると、さっき黙って出て行ったシオン君はやはり無詠唱の練習をしていた。(しかも問題なくこなしている。一体どうなっているのか自分の目を疑いたくなる。)もうシオン君が出て行ってから10分くらい経っているから、もうニ属性くらいの練習は済んでいるかもしれない。今ちょうどお得意の水属性に取り掛かったらしく『スガヒ・カヨマ』(相手の足元に大きなツララを出し、相手を突き刺す呪文だ。)を無詠唱で唱え、自分の前に大きなツララを形成している。っていってもさすがにあの大きさになったら、ツララの上にいる人は串刺しじゃなくて氷の中に閉じ込められる形になるんじゃないんだろうか?
そう思ったとき私は、とんでもない物を目にした。氷の中にシオン君は、もう一つ氷のツララを形成していたのだ。・・・ほんとにシオン君には驚くばかりだ。まさか無詠唱の利点の一つにもう気付いているなんて。おっと、いつまでも見てるだけじゃ駄目だよね。
私は、位置までシオン君に教えてあげることができるのだろう?長くてあと一週間かもしれない。いや、もしかしたら明日かもしれない。
シオン君は気付いていないかもしれないが、いまのシオン君は、この辺の冒険者より遥かに強くなっている。たった一週間程度でここまで、お父さんや私に本気で戦わせるまでになるなんてほんとにおそろしい限りだ。
ちなみに、この辺の冒険者ギルドの面子で私たちに本気を出させる人達はいない。本部に言ったらざらにいるけど。まぁ今はいいだろう。私が怖いのはそこじゃない。学校に行ったときの話だ。かつて自分に向けられた言葉の刃を思い出し、私は少し泣きそうになった。ほんとに色々言われた。
「推薦で入ったからっていい気になって、どうせ人を見下してんだろ。」
ただ教えてあげただけなのに。
「先生に贔屓してもらって何様のつもりなんだよ?金持ちの子だからっていい気になりやがって!」
贔屓して貰いたくてしてもらってるわけじゃない。
「そんなに魔法使っても魔力があるとかおかしいだろ?おまえほんとは魔族の子なんじゃねえの?」
じゃあ、私は一体何者なの?先生もこれくらいは練習したことあるって言ってたのに。
・・・いくら心で泣いても私に対する言葉がやむことはなかった。強いことはいいことではないのか?その問いに答えてくれる人は誰もいなかったし、先生すらも私に勝負を持ちかけてきて、私に負けてしまうとそれまで優しくしてくれていたのに一切相手してくれなくなったこともあった。シオン君はそうなって欲しくない。私がシオン君の能力に対して不安だと思っているのは周りの視線。
シオン君は、優しい子だ。本人に聞いたりはしないが、最初私達にあったときに私達を突き放したのも、私達にほんとに迷惑をかけまいと思っての気遣いだったのではないか?と思えている。それに魔法の訓練をした日、シオン君は言ってくれた。自分と同じ思いをする人を増やしたくない。そんな子なのだから、力を振りかざすことはないだろう。と思う。だからこそ思うのだ。優しいからこそ、強いからこそ軽蔑されるのでは?と。
・・・まぁ、今気にしてもどうすることもできないことだ。私にできるのは、あの子に自分の知っていることを教えてあげる事だけだ。そこまで考えて顔を上げると、シオン君が渡しに気付いて待ってくれているのが目に入った。・・・ほんとに情けない。自分がこんな事を心配してもどうしようも無いし、ましてや練習の邪魔をしてしまうなんて。
「ごめんね。お待たせ。」
私はそう言って、自分の杖を手に取った。
・・・・・
side:シオン
一人で佇んでいるアヤを見て気にかかって練習を止めていた。やっぱりアヤは、なにかを隠すように笑顔をたもっている。しかし、どうしても聞く気にはならず、僕は別のことを聞いてみることにした。
「アヤ。」
「何、シオン君?」
「僕の気のせいかもしれないんだけど、無詠唱ってほんとに早いだけがメリットなの?」
「・・・どういうことかな?」
反応を見て確信した。ここ一週間練習して分かったのだが、アヤは僕がなぜそう思ったのかという理由を言うまで一切僕の提示した予想があっているのか間違っているのかも教えてくれない。ただ、癖なのかどうして?と聞く時アヤはあっているとき、少し声が明るくなるのだ。
「さっき無詠唱で『スガヒ・カヨマ』を唱えてたんだけど、氷の中にもう一つ氷を作るイメージをすると、中にもう一つ氷ができたんだ。・・・もしかして無詠唱ってある程度までは自分の思うように形を変えることができるんじゃないの?」
「・・・。」
「・・・。」
わずかな沈黙の後、アヤは少し笑顔を浮かべた。
「正解。よく分かったね。それが無詠唱で唱えることの一つ目のメリット。でももう一つあるんだよ?」
「もう一つ?」
それは全く予想が付かない。早くなること、形を変えられること・・・。
「あ・・・。」
「早いね。もう気がついたの!?」
少し前、アヤが魔法を片手だけで使って見せたのを思い出した。杖を持っていても同じことができるのであれば・・・。
「二つ同時に魔法を打つことができるんだね?」
「正解。だから下手したら中級魔術師でも無詠唱が使える人の方が、上級魔術師より強いこともあるんだよ。」
アヤが嬉しそうに解説してくれる。どの顔は、さっきの話を始める顔より少し明るいような気がする。内心良かったと思いつつ、僕はその後の練習をするのだった。(中級魔術が全て魔法が使えるようになり、上級魔法を覚えてその日の魔法の訓練は終わった。アヤがいつにも増して張り切っていたからスリクさんが、そこまでやるんなら、今日一日練習しててくれ。明日シオンと一緒に森に言ってくる。っと言うので丸一日練習をした。)
・・・・・
side:スリク
アヤが今日は偉く張り切っていたようだが何かあったのか?っと本人に聞けることも無く、俺はその日一日自主練を済ませて俺は少し早めに寝たのだが、そのせいか、いつもよりも早く目が覚めてしまった。外を見るとまだ日も出ていない。リビングに行くと何故か、アヤとシオンが二人が仲良く肩を寄せて寝ていた。二人とも目に涙をためている・・・二人とも辛い思いをしているのだから当然かもしれない。
こんな時間だし起こすこともできない。・・・さてどうするか。シオンより先に森に行っておくか。俺はそう考えて外に出て行った。
・・・・・・
side:シオン
昨日アヤと話し込んで、いつの間にか寝ていたらしい。なにかちょっと目に違和感がするから拭ってみると、目に涙がたまっていた。隣を見るとアヤもどうやらアヤも目に涙を浮かべているようだった。僕が言えることなのかは分からないけど、アヤにも何かあったのだろうか?そう思いながら机を見ると、スリクさんの手紙だろうと思われる紙切れが置いてあった。
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