第6話:腕試し

side:シオン


 アヤの魔法に唖然としたその数分後、僕は今度は自分に唖然とすることになった。隣ではアヤもぽかんと口をあけている。何があったかは至極簡単なことだ。ぼくが魔法を唱えた。それだけのことだ。まぁ、逆に言うとそれだけのことに驚くだけの要素があったということなのだが。

 ・・・簡単に説明しよう。『杖を使わず』に岩を10

個粉々にしました。アヤは杖で魔力を5倍にして20個だったから単純に計算するとアヤの魔力の2.5倍をぼくは所有していることになる。

「これはまた、初めから抵抗もなく普通に魔法が使えて増してやこの威力・・・。シオン君すごいね。」

「いまいちよく分からないけど。」

「・・・シオン君今何歳?」

「?十歳だけど?どうして今更?」

「うん、この世界では十歳までは魔法がシオン君みたいに使える子がいるんだけど、十歳になると使えてた子が使えなくなったり、使えてた子が使えなくなったりするの。つまり・・・。」

「十歳からの魔力が自分を支える?」

「そう。私も十歳までは魔法はからきし駄目だったし。・・・それにしてもここまで膨大な魔力を持ってる人なんて見たこと無いよ。下手したら魔力だけなら司るものくらいには・・・。」

「ま、まさか。」

 いきなりこの世界トップクラスの人達と張り合うなんて冗談じゃない。

「まぁ、どんなに力を持ってても間違えた使いかたしてなければ何も問題は無いよ。ましてやシオン君はそんなことしそうにないし。」

「・・・?何でそんなこと言い切れるの?」

 こんな力もっていたら自分がおかしくなった時が怖い。不安をぶつける僕を安心させるためかアヤは、僕の肩に手をおいた。

「あのね、シオン君。こういうと何だけど君は大切なものを失う怖さを知ってるでしょ?」

「・・・。」

「大事なものを失う怖さを例えば、君より小さな子達に合わせてやろうとか思わないでしょ?」

「・・・うん。」

 思うわけが無いできればそんな子一人もいて欲しくなんて無い。

「でしょ?じゃあ大丈夫だよ。」

 そう言うと思った。と言うようにアヤは得意げに笑った。何でアヤが大丈夫というのか何となく分かった気がする。ただ、魔法がからきし駄目じゃなかったのはよかったと思っておくことにしよう。

「まぁ、私がほんとに怖いと思うのはその飲み込みの早さだけどね。普通『ガンレ・セルス』は使えるようになるまで魔力のある人でも5日はかかるのにそれをものの数分でやっちゃうんだもん。そっちの方がびっくりしたよ。」

「・・・そんなに難しかった感覚は無かったけど。」

 アヤがやったのをそのままイメージしてやってみた。そんな感じだ。

「飛ばした水球が一個だけならそれで済むだろうね。でもシオン君が飛ばしたのは何個だっけ?」

「・・・10個。」

「私が最初に飛ばせたの1個だよ?杖無しで3個飛ばせるようになったのは、飛ばせるようになってから3日たってからだよ。」

 ・・・ちょっと頭の中を整理しよう。アヤはこの付近ではトップの魔法使いで、才能があったと仮定していいだろう。そのアヤが今の形で魔法を飛ばせるようになったのが魔法を始めてから8日たってから、ということらしい。

 そう考えればかなり異常と言えるだろう。確かに学校のテストとかで百点良くとってたけどそこまで理解力もあるわけではないんだけどなぁ。

「へぇー。シオン君のいたところにも学校ってあったんだねー。」

「・・・口に出してた?」

「うん。思いっきり。シオン君たまに考えたこと口から出てるよ?。まぁ、それは置いといて、その考えはあながち間違えではないかな?規格外っていうくらいの早さだし。この調子ならシオン君が魔法学校に行く前に私に勝っちゃうかもね。」

「魔法学校?」

「うん。名前の通り魔法を使う訓練をする学校なんだけど、シオン君がある程度魔法を使えるようなら行かせてあげようっていう話しをお父さんとしてたんだ。これなら問題ないみたいだし。その学校行っておけば色々教えてもらえるから帰ってきたらすぐに一緒に冒険に行けるしね。」

「・・・期限は?」

「私とお父さんの都合にもよるけど基本的には5年間かな。」

 長いと思うのは僕がおかしいのかなぁ。いやでも、小学生は六年間だしなぁ。でも、慣れていないこの世界でいきなり?僕の気持ちを察しているのかいないのか、アヤは気にせず話を続ける。

「受験方法が二つあるんだけどね。私をこの一ヶ月で魔法あり、剣技ありで勝つことができたら推薦入試、負けたら・・・そんな事は無いと思うけど一般入試、これは実技になるんだけどね。推薦入試は、うーん、一言で言うと王宮魔術師に勝つ。それだけ。」

「要は、実績を作って受験しなくていいようにしてもらうって言うこと?」

「そういうこと。まぁ、簡単に言うと一ヶ月以内に私に勝っちゃえばいいんだよ。と言っても簡単に負ける気も、負けてあげる気もないんだけどね。」

「負けず嫌いなんだね。」

 得意げに話すアヤに僕は苦笑気味にそういった。ただアヤは僕のことでまだ知らないことがある。

「じゃあ僕も本気で勝てるように練習しないとね。」

 そう、僕もとてつもない負けず嫌いなのだ。それこそゲームでもスポーツでも一回でも負けたら日が暮れるまで練習するくらいに。(まぁその性格のおかげでよく母さんには怒られていたが。)負ける気がないとかそんなことを言われたら、絶対に勝ってやろうと思ってしまうのだ。

「そうだね。まぁ、負けたくないから教えるのを手を抜くなんて事はないから安心して。」

「うん。これからよろしくお願いします。」

「うん。改めてよろしく。」 

 そのあと、いくつかの初級魔法の訓練をし、(どれも物の数分で成功することができたが。)その日の訓練はそれで終了となった。

 魔力を使ったら、疲労感が来ると言っていたが、僕は疲れなかったしアヤも見たところ疲れてはいないようだった。

 ちなみに使った呪文は、それぞれの魔法、つまり火、土、風、水、治癒属性の種類2種類ずつだ。魔法の名前は火属性は『レジス・フィンタ』(火の玉を相手に飛ばす呪文)『ガルノ・バジテ』(自分の周りの温度を上げられる)

 風属性は、『ポウイ・テルニ』(自分の狙った対象の下から風を起こし相手を宙に飛ばすことができる)『エワド・ジャスイ』(敵にかまいたちを飛ばすことができる)

 土属性は、『グランド・アップ』(相手に地面から飛び出す岩の塊を飛ばすことができる)『ソール・テクト』(瞬時に自分の手に岩の剣を作ることができる。丈夫さはその人の魔力に依存する)

 水属性は、さっきの『ガンレ・レイス』と『ギテン・ウイン』(相手を水の蔓で縛ることができる。ただ、手を抜かないと相手を絞め殺すことになる)

 治癒魔法は、『フユリ・スレン』(ある程度、魔力に依存するが傷を治すことができる)『シレテ・ヴァヘル』(自分の疲れをたまりにくくすることができる。ただし、魔力の消費は別)を練習したどれも何とか使えるようになったが、無詠唱で使えるようになるには明日もう一度やってみる必要がありそうだ。訓練の終わりにアヤは、

「シオン君今日一日で、私が4ヶ月かかった練習全部やちゃったねー。」

 と、もう驚くことにも疲れたという風なつかれきった表情を浮かべていった。(ちなみに、その日アヤと手合わせしたところ、中級魔術師からのスタートとなった。・・・当然負けた。)

・・・・・

 アヤとの訓練が終わったあと、昼食を挟み、(家では料理を作るのは当番制らしく今日はアヤが作ってくれるらしい。昼食はジュデルと言う日本で言うところのオムライスのようなものを作ってくれた。とてもおいしかった。)僕はスリクさんとの剣技の練習に取り掛かった。

 スリクさんは、最初に剣技にいくつかの流派があると言う事を教えてくれた。まず、スリクさんの使っているユナタ剣術、そしてアヤの使っているマカイ剣術」、亜人族がよく使うリバー剣術、そして冒険者の使う(複数体を相手にするのに適しているらしい。)シャクナ剣術。

 四つとも特徴がありそれぞれ違いがあるが、関連しているところはやはりあるらしい。どの剣術もほんのわずか、魔力を消費する。それだけはどの流派も一緒らしい。ならスリクさんはなぜ剣術を使えるのか?ということなのだが、ほんとに微量なので自分の体力を使ったという自覚さえもできないくらいだからだ。っと教えてもらった。

「まぁ、剣術で教えられるのはこのくらいか?当然の話だが俺が教えるのはユナタ剣術だ。あとそれなりに実力がつくまでは危ないから、あの片手剣じゃなく木刀でやってもらう。重さは一緒だから持ち替えた時の違和感はあまりないと思うから気にしなくていいぞ。」

 スリクさんは僕にそう説明しながら、自分用の木刀と僕の木刀を二本持ってきた。手に持ってみると、確かに木だと思えないくらいに見た目より重い。

「じゃあ始めるか。」

 スリクさんは剣を構え僕を見据えた。え?これって・・・。

「もしかして先に剣を交えるんですか?」

「当たり前だ。自分のランクが分かっておいたほうが、訓練の気持ちの持ちようも変わってくるだろう。」

  理屈ではそうだけど、相手があなただと話は別ですよ・・・スリクさん。仮にもトップクラスの人といきなり手合わせってどうなんですか?僕の訴えに気付く様子もなく、説明を始める。

「俺の攻撃を15秒避けられたら下級剣士、20秒避けられたら中級剣士、30秒避け続けられたら上級剣士だ。俺に一撃加えられるごとに5秒ずつそれぞれの時間は短くなる・・・。そんなわけで始めるぞ。」

 内心でどういうわけだよ!!と叫んでいる僕に関係なくスリクさんはその場に残像を残し僕の前に現れた。

 僕は足に魔力を送る意識をし上に跳ぶ。予想どうり普通の人間では考えられない距離の跳躍をすることができた。当然スリクさんは、上に飛んだぼくを追いかけてきた。ここまで約5秒僕より少し上まで跳躍したスリクさんは、容赦なく剣を振りかざしてくる。僕は体をひねらせてスリクさんに一撃加えれ・・・・なかった。スリクさんはなんとも器用に体をひねり僕の剣に当て相殺させた。

 ちょうどお互いの動作瞬間僕達の足が地面についた。いったん僕はスリクさんと距離をとり、剣に魔力を宿らせるイメージで斬撃を飛ばす。さすがにスリクさんも僕が急にそんなことをしてくるとは思わなかったらしく、剣ではなく腕でとめてしまった。つまり一撃あったということだ。これを足して現在19秒、時間を稼ぐために僕はさらに後退しようとしたが・・・。

「オラァ!!」

 とてつもない気合とともにスリクさんが斬撃を飛ばしてきた。甘かったそりゃそうだ。僕も飛ばせるのだから当然スリクさんも飛ばすことができるだろう。僕は為す術もなくその一撃を受けることになった。23秒・・・つまり中級魔術師からのスタートということだ。空を見ながら僕はそんなことを考えていた。するとスリクさんが苦笑いしながらこちらに寄ってきた。

「悪い悪い。剣術なんてしたことないだろう。と思ってたらいきなり斬撃を飛ばしてくるから本気になっちまったよ。」

「ほんと、あんなにぶっ飛ぶモンなんですね。」

「あぁ。本物の剣でやってたら上半身無事じゃすまないだろうな。今のは。」

 うん。剣術、怖い。

「まぁ、何はともあえ中級からのスタートだな。基礎も何故か大体できてるみたいだし。」

「そうですか。お願いします。」

 僕はスリクさんに頭を下げ、剣を構えた。しかしスリクさんは意外なことに、僕とは反対に剣を下におろし、

「いや、今日の訓練はもういい、真剣にやったから疲れただろうし、さっきのダメージも残ってるだろう続きは明日やろう。」

「あ、はい。わかりました。」

「じゃあ先に戻っておいてくれ。俺は木刀を片付けておくから。」

「はい。ありがとうございます。」

 僕は会釈をしてその場を後にした。

・・・・・・

side:スリク

 本当に驚いた。あそこまで本気で最初から攻撃をしたのにかわされた事もそうだが、それよりも驚いたのはあの斬撃だ。

 まさか何も教えていないのにあそこまでできるとは。まぁ、それもシオンだからよし。としても『木刀から出した斬撃で相手を切ることができる』とは思わなかった自分でも何の冗談かとおもったが、胸についた一本の傷が全てを物語っている。そもそも、それをしようと思ったら真剣でしかできないだろうし、スリクもそこまでできる相手と対峙したことがない。

 もし、シオンが魔法でそれをやったとするならば、シオンは、魔法の伝達能力に関しても桁違いに長けていることになる。

「・・・あいつはどこまで成長するんだろうな。」

 恐ろしいという感情がないわけではないが、それよりもどこまでシオンが伸びるかが楽しみだ。俺は木刀を小屋にしまいに行きながら少し笑みを浮かべた。 

 シオンがどうなるかが楽しみだ。これからのことに密かに胸を踊らせながら、俺は木刀をしまい、庭を後にした。

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