第2話:魔法

 二人の話を聞いているとどうやらアヤは、現役の冒険者で魔術師をして、王級魔術師という結構地位で名前が知られているらしい。

 ちなみに、王級とは階級の事らしく見習い、下級、中級、上級、王級、帝級、国級という順番で後ろに行けば行くほど階級が高くなるらしい。

 一般人であれば中級までがせいぜいらしいのだが、アヤはその二つ上を行っているにも関わらず剣も使えて、上級剣士まで上り詰めているとか。

 これだけでもすごいのに、スリクさんは、現役冒険者ではないし、魔法こそ使えないが、剣術は凄腕らしく帝級剣士で、冒険者を引退したいまでもこの国ラグドの王国に出向いて城を守る騎士達に指導しているのだとか。

 そんな訳でアヤとスリクさんは、僕を冒険者にしよう。と二人で決めたらしく、魔法はアヤが教えることになったのだが剣術をどちらが教えるのか。と言う事で、二人はもめているらしい。

 何故もめているのか?と、聞いてみたところ、アヤが言うには、

「剣術は、大まかに4つに分けれるの、その中で、お父さんは冒険者の使うシャナク剣術を、私は魔術師が使うマカイ剣術を使っているの。つまり、ここでどっちに剣術を教えてもらうかによって、シオン君のこれからの冒険者人生が大きく変わってくるんだよ。」

 と言うように、とても重要な問題らしい。30分の討議の末、

「お前より、俺の方が剣術をしっかり極めてるんだから俺が教えたほうがいいだろう?」

 スリクさんの、この言葉でアヤはしぶしぶと言った感じだったが一度口を閉ざし、話題を変えた。

「まぁ、剣術の話はいいとしてシオン君の服どうするの?今デグニだし、当分寒いんじゃない?」

「デグニ?」

「この寒い季節のことだよ。付け足しておくと、この後の季節をフォレス、レクオ、イッシュって続くんだ。」

 どうやら僕たちの感覚で言うところの、春、夏、秋、冬という感じらしい。そして、今は冬と言ったところだろうか。僕のいた世界は季節は、夏だった。つまり、半袖なのだ。室内なのでそこまで寒さを感じなかったが、この格好のまま外に出ていたら酷い目にあっていただろう。・・・引き止めてくれたアヤに感謝しよう。

「とりあえず買い物行こうよ。シオン君つれてさ。」

「えっ?でもこの格好じゃ寒いんだけど・・・。」

「魔法があるから大丈夫!!」

大丈夫と言われても、はいそうですか。と言えるほど魔法に詳しいわけではないからとても不安だ。

「あー!!信用して無いんでしょ!!」

 僕は全力で頷いた。当然だ。僕からしたら魔法なんて御伽噺のようなものだったのだから急に信用できるわけがない。

「もー。」

 アヤは、不服そうに頬を膨らませて仁王立ちになり、人差し指を軽く振った。すると指が赤色の淡い光をまとった。アヤはその指で僕の額を軽く突いた。一体何が起きたのだろうか?呆然としている僕にアヤは、

「部屋から出てみると分かるよ。」

 と言って、僕を廊下に連れ出した。

「ちょっ、そんなことしたら寒い。・・・あれ?」

 寒くなかった。彼女の方を見ると、

「寒くないでしょ?」

 と、優しく微笑んだ。驚いた。本当に部屋にいたときと同じ状態といっても間違いないくらい暖かい。僕はうなずいた。

「うん。寒くない。」

 僕の反応を見て、アヤは満足そうに頷いて、

「それじゃあいこうか。お父さんアクア連れてきて。」

「お前が連れて来い。何で俺が連れてこなきゃいけないんだ。」

「むー!!私があの子に好かれてないの知ってるでしょ。」

 アヤが不服そうにスリクさんを睨んだ。

「魔法が使えるようになってすぐに冒険者になって、うちに帰ってこなかったからだろう。」

「分かってるなら言ってきてよ。またしばらくしたら私、行かなきゃ行けないんだから!」

「だからこそ一回くらい話しかけておいてやれっていてるんだろう?馬だっていても、家族なんだから。」

「うー。分かったわよ。」

 アヤはしぶしぶながら頷いて、外につながっているのであろう扉に消えていった。

「まったく。」

 スリクさんは、軽くため息をついて、

「服を着替えてくるから待っててくれ。」

 と言って、僕たちの出てきた部屋の隣の部屋に入っていった。取り残された僕は、着替えをしているスリクさんを邪魔するわけにも行かないので、アヤの後を追いかけたのだが・・・。

「ちょっと!アクア大人しくしてよ!もーなんで言うこと聞いてくれないのー!」

 ・・・悪戦苦闘していた。馬の綱をアヤは、きちんと綱を持っているんだけど、どうやら相当嫌われているらしく振り回されていた。

「あ!!ちょうどよかった。シオン君ちょっと手伝って。」

「・・・いやって言ったら?」

 出来れば関わりたくない。自ら危ないところに身を投じるほど、僕も馬鹿じゃない。しかし、次のアヤの答えで僕は手伝わないという選択を選べなくなってしまった。

「今シオン君にかけてる呪文をとく。」

「手伝わせていただきます。いや、手伝わせてください。」

 この魔法を解かれてしまったら、おそらく氷づけにされたような思いをしなければいけなくなるだろう。そんなのはごめんだ。

「・・・で?何をしたらいいの?」

「ちょっと頭撫でてあげて。それで落ち着いてくれると思うから。」

「それって、僕の安全を配慮して言ってる?」

「してない。・・・けど私の方が危ない。」

 それはそうだけど、少しくらい僕の安全も配慮して欲しいものだ。この僕より大きい暴れ馬アクアに蹴られるなんてごめんだ。

「早くしてー。」

「・・・あぁー、もう分かったよ。怪我したら責任とってよ!!」

「了解!!。」

 ・・・ぜんぜん信用が出来ない。でもそんなこと心配していても始まらないから、とりあえず頭を撫でてみた。すると、どういう理屈かは知らないけどアクアは急に大人しくなった。そのとき、ちょうど着替えが終わって部屋を出てきたスリクさんが、

「おー。こいつが他人に撫でられて大人しくなるなんて、めずらしいなー。」

「僕、そんな危ないことをしてたんですか?」

「いや、そうでもない。悪くても顔面を蹴られるだけだ。」

「・・・。」

 十分危ないじゃないか。

「普通撫でる前に止めるんじゃないんですか?」

「面白そうだから見てた。」

 当然だろと、スリクさんは満面の笑みを浮かべた。・・・急にこの人に、剣術を教えてもらうのが不安になってきた。

「まぁ、何とかなったみたいだからいいじゃないか。」

 スリクさんは、何が面白いのかくすくす笑いながらアクアの背に飛び乗った。

「ぐずぐずしてっと置いてくぞ。アヤお前の買い物じゃないんだからな。」

「そんな言い方しないでくれる?お父さんのほうこそ別に来なくてもいいんだよ?シオン君に魔法をかけてるのは、私なんだから。」

「お前、偉そうに言うがな、金は持ってんのか?」

「もってるよここに。・・・あれ?」

 服のポケットに得意げに手を突っ込んだがすぐに顔を曇らせた。スリクさんは、何かを知っているようで、先ほどとは違う、いたずらが成功した子供のような顔をしてアヤを見ている。その視線に気付いたアヤは、

「お父さんまた私のお金すったでしょ!!」

「だって、お前の反応がいつもワンパターンで面白いから。」

「速く返しなさい!!」

 怒りと間抜けなところを僕に見られたのが嫌だったのか、顔を真っ赤にして怒鳴るアヤだったがスリクさんは、そんなのどこ吹く風。平然とした顔で、

「まぁまぁ。そんなに怒らなくてもいいだろ。ほら。」

「全くもう。行こうシオン君。」

 アヤは、頬を膨らませてスリクさんを見た。さっきの怒ったところといい、今の子供じみたところといい喜怒哀楽が激しいというか、表情が豊かというか、年上という感じがしない。

 そんな僕の考えなど一切知らないアヤは、怒った顔をしたまま僕の腕を引いてアクアの上に乗せた。今度は暴れなかった。

 アクアは、何の合図もしていないのに、そのまま町のほうへ歩き出した。暴れ馬の癖に意外に賢いらしい。

「ほんとに、何で私のことだけ拒絶するのかなあ?」

「日ごろの行いが悪いからじゃないか?」

「お父さんよりましだよ。」

 ・・・この親子は、静かにするということを知らないのだろうか?僕は、うんざりしながら二人を見ていたが、いい合いが治まる気配はなく、結局町につくまで続いたのだった。

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