第1話迷い人
sideシオン:
「ねぇ、シオン君。魔術やってみない?私が教えてあげるからさぁ。」
目の前で、アヤが言った。その隣で、スリクさんも
「いいかもしれないな。ただし剣術は、俺が教えるからな。」
「えー。魔術と一緒なら私が教えるよ。」
平然と会話をしている二人を未だ現状が理解できないまま僕は見つめる。
何でこんなことになっているのかというと、それは30分くらい前に遡る。
・・・
目が覚めてまず目に入ったのは、見たことの無い天井だった。見渡すと壁なども特になにか塗られているわけでもない、普通の木材の部屋だった。なんと言えばいいんだろう。そう、少し前父さんにつれられていった山でみた小屋の壁みたいだ。
まぁ、あの時みた小屋よりははるかに広いけれど。
時間は、もうお昼に近いらしく、窓から入ってくる日差しが容赦なく僕の顔を照らしている。お客様用の部屋だからなのか僕の寝ているベットと、机、そして椅子しかなく、その椅子には、中学生ぐらいの女の子が座っていた。(本当は、僕は小5だから女の子じゃなくて、お姉ちゃんと言わなければいけないのかもしれないが、見ず知らずの人をお姉ちゃん呼ばわりするのは少し気が引ける。)
しばらくその女の子を観察していると女の子が、こちらを向いた。
「あ!気がついたんだ。大丈夫?」
「はい。・・・あのここは?」
「ここは私の家だよ。」
僕の期待・・・と言うか望んでいる回答とは違う返答を女の子がしてくれたとき。女の子の後ろにある扉が開いて30代くらいの男の人が入ってきて女の子にあきれた口調で、
「誰がこの家は誰の家ですか?ってきいたんだよ。そこの坊主がいってんのは、ここがなんていう地名か。て言うことだろうが。」
「え!?そうなの?」
・・・どうやらさっきの回答は、真剣に驚いているところを見るとおふざけでもなんでもなく、いたって真面目に答えたつもりだったらしい。もしかしたら少し天然な子なんだろうか?
「・・・ここは、ラグドって言う国だ。って言っても知らないんだろうなぁ。だってお前この世界の人間じゃ無いんだろうから。」
「「え?」」
僕と女の子は言葉を理解できず首を傾げた。
「いやいや、坊主は首を傾げる理由は大いにあるが、アヤお前が首を傾げる理由がさっきの会話のどこにあった!!」
「あるよ。私はてっきり転移魔法に失敗して、おまけに魔力の使いすぎで力尽きたただの魔術師の男の子だと思ってたんだもん。」
「じゃあ、坊主のもってたこの訳の分からないもんを見ても何も思わなかったんだな?・・・ったくほんとに観察能力の無いやつだなぁ。」
男の人はそういって、スマートフォンを取り出した。・・・僕のだった。
「それ何?」
「坊主の持ってたもんだよ。こんなもん見たことあるか?」
「・・・。」
返事をしなかったところを見ると、どうやら知らないらしい。
「ちょっとすいません。」
僕は男の人のから携帯を貰い、画面を見た。ここが僕の知っている世界でなければ当然起こっているであろう事態をかくにんするためだ。
予想どうり携帯の斜め上の画面には<圏外>文字が表示されていた。無論これだけで判別するのはどうかと思うが、窓から外をのぞくと町が見えるあたりからしてもここが僕の知っている<日本>という国であれば、ここが<圏外>であることはありえない。とすると考えられる可能性は、ここが外国のどこかである。という事、もしくは僕の知らないどこか違う世界である。ということだが、前者は否定していいと思う。
仮に僕が外国にいるとして、日本語がしゃべれて携帯の存在を知らない人がいるという可能性は、・・・何万分の一かの確率でかは、あるだろうがそんなことは考えずらい。
それに、この二人のさっきの会話を聞く限りこの世界には魔法が存在するらしい。ということは・・・。そこまで考えて、僕は認めた。
「確かに、ここは僕の知っている世界じゃないみたいですね。」
「おっ。小さいわりに随分納得するのが速いじゃないか。もう少し慌てふためくのかと思ったぞ。」
「慌てても仕方ないでしょう。」
「それもそうだが・・・。」
自分で言っておいてなんだが、可愛げが無いなと思う。僕ぐらいの年の子の多くは本当は、おそらく泣いたり、あわてふためいたりするんだろうか?分かってはいる。でもそんなのは、父さん達が帰ってこなかったあの時にいやと言うほどやった。
「まぁいい。それが分かってるなら話が早い。お前さんみたいなやつらを俺たちは”迷い人”と言っているんだが・・・。」
男の人はそこで口を閉ざした。そして、酷な事かもしれないが。と言って口を開いた。
「昔、聞いたことのある話では”迷い人”でもとの世界に戻れた人間はいない。という事らしいんだ。」
・・・なんだそんな事か。内心、僕は安堵の息を漏らしていた。てっきり異端なものと見なされてこの世界では殺されるのかと思った。それに戻れないほうがむしろ都合がいい。帰っても、のたれじぬだけだ。
「・・・この世界では何歳から働けるんですか?」
「働けるなら何歳からでも働けるが・・・。それがどうかしたのか?」
男の人の質問には答えず僕は、さらに質問を重ねた。
「僕みたいな子ができる仕事って、どれくらいありますか?」
「・・・家政婦、執事、宿屋の仕事ぐらいのもんじゃないか?・・・まさか坊主、おまえ。」
聞きたいことは分かっている。でも僕はそれを聞き流した。
「そうですか。では失礼します。」
「え?どこに行くの?」
まだ状況が理解できていないらしい女の子は、首をかしげている。
「これ以上はお世話になる訳にもいかないかな。と思って。一人で暮らしていけるならそれが一番いいでしょう?」
「元の世界に変える努力はしないの?。」
「帰りたくないんです。」
即答した。冗談じゃない戻りたいなんて、爪の先も思わない。
「どうして?家族がいるでしょう?」
「・・・。当たり前のように言いますね。家族がいて当然。とでも言うような言い方を。」
「当然じゃないの?」
僕は苦笑を浮かべた。当然だここまで言われて、臆すること無く当然だという人がいるとは思わなかった。
・・・当たり前なんかじゃない。少なくとも僕にとっては。
「考えてみてください。親がいる僕が何で倒れていたと思いますか。魔力って言うもの使いすぎ?そんなのありえませんよね?僕は、そもそも魔法を知らないんだから。」
「・・・。」
女の子は、何も答えない。僕は、さらに畳み掛けた。
・・・先に言っておくが僕はそこまで人に皮肉を言うような人間ではない。普段は大人し過ぎると言われていたくらいだ。
「分からないなら言いましょうか?僕の父さんと母さんは、死んだんです。僕がここに来るほんの何日か前にね。」
「!!」
女の子が息を呑む声が聞こえた。・・・言い過ぎただろうか?気まずさが漂っている。でも本当のことなのだから仕方が無い。
父さんと母さんは、つい先日死んだのだから。僕はベットから立ち上がった。
「それじゃあ、お世話になりました。生活が出来るようになったら、お礼のほうをしにくるので・・・!?」
そう言いながらドアノブに手をかけたときだった。不意に一陣の風が吹き、僕をベットに押し戻した。
「・・・お父さん。」
「なんだ?」
「この家ってさぁ、確か空いてる部屋があったよねぇ?」
「有るなぁ。」
男の人の返答を聞くや否や、女の子は僕の前に立ちはだかった。
「あなた、名前なんていうの?」
「神山、紫音。」
「そう、シオンって言うんだ。今度からシオン君って言うね。私の名前は、フィルトルット=アヤ。アヤって呼んで。それと、シオン君今日から私たちと暮らしなさい。これは、決定事項。」
「・・・な!!」
一体何を言っているんだこの人は。僕の話を聞いていなかったのだろうか?
「シオン君、今から町に行って、はいそうですか。って仕事もらえると思ってるの?」
「っう。」
痛いところをついてきた。当然そんなこと一切考えていない。自暴自棄になっているのだから、当たり前だ。隣でアヤのお父さんが苦笑して、
「諦めろ。こいつは一度言い始めたら聞かないから素直に従ったほうがいいぞ。・・・こうなったらてこでもこいつは動かないからな。俺はスリクって言うんだ。上の名前はアヤの親だから同じだ。」
・・・どうやら拒否権は一切無いらしい。アヤは、勝ち誇ったえみをうかべて一言、
「決まりだねシオン君。これで家族が出来たね。」
と、満面の笑みを浮かべていったのだった
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