1.問題児と書いて人気者と読む!

 二年目の新学期。

 賑わう教室に、気怠そうな担任が入ってきた。


「皆、進級おめでとう。今からプリントを配るから、ちゃんと家の人にも見せるんだぞ」


 やる気の感じられない担任は、進級に当たってのプリントを配布し終えると教壇に立つ。


「中学二年ってのは、色々慣れてと思うが、この学年の成績は高校入試で重要になるからな。気付いたら三年だった、なんてなるなよ」


 また受験の話かよ。それ、一年の終わりにも聞いたし。

 教室のいたるところから不満の声が上がり、担任は苦笑を浮かべた。


「同じことを言いたかねぇけどな。一年はあっという間だ。散々楽しんで、来年受験地獄を乗り越えるのも良いし、今年しっかり学んで来年楽をするのも良い。それはお前達の自由だが、まぁ、悩んだら話くらい聞いてやるぞ」

「せんせー、職務怠慢しょくむたいまんだと思いまーす!」

「自由の押し売り良くないぞー!」

「おっ! 難しい言葉知ってるな。偉いえらい。それじゃ、明日の実力テストも満点だな。期待してるぞ!」

 

 適当な感じに笑う担任は、教室中から上がった不満の声に怯む様子もなく、席の一番後ろに集めるように言った。

 俺の名は常之原とわのはら暁斗あきと。出席番号は二十八番で、可もなく不可もなく、そこそこ全体が見渡せる感じの席だ。

 教室を見渡すと、入り口近くの女子たちが視界に入った。顔を寄せ合って何かひそひそと話している。その片方、栗毛色のボブヘアの女子が、いわゆる、俺の幼馴染だ。

 今年も、律花りっかと同じクラスか。小学校から通算八年目だ。

 こういうのを腐れ縁というのかもな。

 幼馴染──天河あまかわ律花りっかを見ていると、後ろから背中を突かれた。


「とわ、今年もよろしくな」

「……お前とも一緒だったな」

「何だよ、その嫌そうな口ぶり。律花ちゃんばっか見てさ」

「男を見る趣味はないからな」

「うわっ、開き直ったよー。このストーカー野郎」

「誰がストーカーだ、誰が」

「毎日、律花ちゃんと登校して、一緒の塾に通って、帰宅も一緒!」

「そりゃま、家が隣だし。つうか、お前こそ俺の後をついてくるな」

「ひっでー。俺たち、親友だろ?」

「……ないわぁ」


 冗談半分で話していると、担任が「常之原、永春ながはる!」と俺たちを名指した。


「お前ら、頼むから面倒ごと起こすなよ」

「先生、俺たちがいつ面倒起こしたんですか?」

「喧嘩とかいじめはしてませんよー」

「いつも面倒ばっかりだろうが……」

「あっ! もうピザは頼みませーん!」

「あぁ、そう言うこと? もう教室でガスコンロは使いません」

「そしたらどうやってお湯沸かすんだよ! 俺、ラーメン食いてぇし!」

「ポット持って来ればよくね?」

「コンセントの使用も禁止だ! 弁当持ってこい!」


 ふざけ合う俺たちに顔を引きつらせた担任は、この日初めて声を荒げた。

 教室中から笑い声が上がった。


 俺たちは何だかんだで意気が合う。

 一年の時、昼休みに宅配ピザを頼んだとか、ガスコンロを持ち込んで鍋を始めたとか、拾った仔猫をロッカーで飼おうとしたとか、二人でちょいちょい問題を起こした。

 当然、親が呼び出されたし、先生たちには問題児って思われてる。

 喧嘩や虐めと比べれば可愛いもんだって、俺の親父はげらげら笑ってたけどな。ガスコンロを持ち込んだことは、母さんに懇々こんこんと説教をされた。


 二度としないけどさ。ポットで湯を沸かすくらい良いんじゃねぇのて思う。冬は熱いラーメン食べたいじゃん。

 個人面談の案内が書かれた紙を見ながら、俺は小さくため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る