幻鏡界の魔王~俺はただの中学生だ!魔王になんて絶対ならない!!~

日埜和なこ

序 ようこそ、魔王様

 金の装飾と文字が美しい革表紙の本を俺は開いた。

 眩い光に飲まれた後、目を開けた先に見たのは──


「……図書館?」

 

 夕焼けから夜に移る黄昏時の様なくらがりにの中、現れたのは古びた大きな本棚だ。どれも装飾が美しい。こういうのを、アンティーク家具というのかもしれない。

 何かが潜んでいる路地のような空気の中、本棚を見上げていると、少し低めの声が響いた。


「ようこそ、魔王様」

 

 反射的に振り返り、そこに声の主である金髪長身の綺麗すぎる男──ルドベキアを見た。


悪鬼シャイターンをぶっ飛ばすための、力を貸りにきただけだ!」

「えぇ、存じ上げております」


 にこにこと笑うルドベキアは、案内しますと言って歩き出した。

 静かな足音が響かせる後ろ姿を追い、俺は奥に進んだ。


「魔王様には、読書をしていただきます」

「そんな暇あるか!」


 こうしている間にも、律花が狙われてるかもしれないって言うのに。

 手っ取り早く、悪鬼が苦手なアイテムや便利な魔法とか、そう言うのを借りられるんじゃないのかよ。

 

「読書は簡単ですよ。本を開くだけですから」


 立ち止まったルドベキアは一冊の本を棚から引き抜く。

 本の表紙からぞろぞろとつたが這い出てきた。さらにその中から頭をもたげたのは絶世の美女だ。

 美しい金髪に赤い花冠を飾り、麗しの姫と呼べそうな漆黒のドレス姿をしているが、その裾から出ているのは美しい足ではなく幾本もの蔦。

 まさか、こんな魔物と戦えってい言うんじゃないだろうな。


「さぁ、お勉強の時間です、魔王様」


 蔦の先が床を叩き、したんっと音を立てる。

 絶対無理だろう。俺は、タダの中学生なんだから!


「俺は、魔王じゃない!」

 

 俺の叫びが虚しく響き渡った。

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