第3話 努力の道を歩いてきたよね

俺こと鬼龍院きりゅういん 琴耶ことやは高校入学前の長期休暇、つまり、春休みの間に「陽キャになりたい」というたった一つの目標に向かって努力をしてきた。


今から話すことは俺が踏んできた道程の話である。


桜が舞う季節になった3月の下旬。俺はなんの思い入れもない中学を卒業した。今までなにも楽しくなかった。唯一の救いはアニメとゲーム。


3次元になんて興味無い。それは逃げのセリフで、俺は実際に、未練、尊敬、嫉妬、羨望という感情を持っていた。


だからこそ高校で変わりたい、そう思った。


俺は春休みに磨く、俺自身の体と精神を。


俺は春休みに達成することのロードマップを作った。けど、そんなものあったって実際はどうしようもない。今までに俺が夏休みの計画どうりに動いた試しがあっただろうか。


つまり俺はできる限りのことをするしかない。そう思った。


1つ目は、体型を整えること。プルリンっと、肉がついていて、腹筋も全く割れていないこの体には女子なんて食いつきたがらないだろう。


1日腹筋トレーニング300回。どっかのトレーナーが初めて筋トレをする人にとって1日腹筋100回を急に始めることはエベレストを登るのと同じぐらい大変だとか言っていたがそんなもの関係ない。やるだけやる。それが俺だ。


そして次に髪型。くせ毛でうねうねした、モズクのようなこの髪をどう整えるか。俺の財産的に縮毛矯正は到底できっこない。


「どうするか……」


5000円。俺は生まれて初めて自身の美容のために金をつぎ込んだ。


なにに?


「そう、これだ。これを毎日すれば!」


ヘアーアイロンを買った。もっと高価なものもあるが、これが俺の限界。


くせ毛自体が改善するという訳では無いが、これを出かけるときや、風呂からあがった後にかければ見事一時的にストレートヘアーをゲットできるというわけだ。


それと、ついでに洗い流さないトリートメントというやつも買ってきた。こっちは正直よくわかんないけどとりあえず安価な800円のものを買ってきた。


そして次に性格、精神を叩き直す。


これは相当大変だった。

俺が通う高校、神坂丘光かみさかきゅうこう高等学校は埼玉県深谷市の高校であり、俺の実家は青森県。俺は埼玉に引越し、一人暮らしを始めた。高校で一人暮らしなんてできんのかよ。そう思うだろう。

俺もそう思った。俺は今まで目標というものがなく、暗かった。家でも。

だからそれを活かして親を説得した。

今まで暗かったやつが本気の真面目な今まで見た事ないようなか顔で目標を持った。そう言ってきたら応援してやりたくなる。実際は人に言えるような目標じゃないんで、適当に嘘をついておいた。すまない、父、母。

そういう人間の心理を使う。


そして最初は親も一人暮らしなんて反対していたが、最後には承諾してくれた。生活費は親かの仕送り。

親も起業で大成功した!って訳でもないので俺もしっかり空き時間でバイトをする。


そして埼玉に引越し、俺は精神を叩き直すトレーニングを始めた。


やり方はすごく簡単だ。


まず隣の県であり、日本の中心の東京に行く。


そして行く場所は主に渋谷。


そこで何をするかって?


ナンパ。じゃない、ただ相手に声をかけて、「近くのコンビニはどこですか?」や、「この店ってどこにありますかね?」などと声をかけるだけだ。


これはとても簡単に見えるだろうが、半永久的コミュ障(自慢)の俺にとってはとても難しかった。


俺たち陰キャは人と話すことや、話しかける時に無駄に気を使ったり、相手が迷惑と思わないだろうか、などと考えてしまうため人に話しかけづらいのだ。


だって話しかけて無視されたりしたらツラいじゃんか!!舌打ちされたり、睨まれたりしたらもう……


だから、そんなもの考えない。考えないようにした。


最初はやっぱりとても緊張した。口ごもってしまったり、相手の目を見れずに下を向いてしまったりした。


それも治した。陽キャは相手の目を見る。


何回も睨まれたり、舌打ちもされたりした。その度に挫け死にそうになったけれど、諦めなかった。


そして、俺は完全に慣れたのだ。初めて会う人に声をかけることに。


──そう、思っていた。ほら、この前結局ボロが出ただろう。おっパイJKに声をかけられなかった。代わりにヲタクくんと友達になったけれど。


だからまたそれも叩き治さないといけない。


次に顔だ。そう、顔面。

顔そのものは整形などをしなければ整えることができない。


そう、思っていないか?


だから俺は考えた。女子はメイクをするだろう?まあ、化粧ってやつだ。

あれを使う前と後のビフォーアフターにはとても驚いた。

動画共有サービス「YourCube」でメイクをぬした後の女性のビフォーアフター動画を見たのだ。


そしてメイク動画も沢山みた。そして習った。


女子がメイクをして可愛くなるなら、男子もメイクをしてかっこよくなれるだろう。


そういう理論だ。


沢山の化粧品を買った。今月の小説費、ゲーム費は全て自分の美容のためにつぎ込んだ。陽キャになるために。目から血が出るような我慢だった。


ついでに、顔のマッサージ、洗顔、スキンケアにも気を配るようにした。


結果。その全てを成し遂げた俺は、変わった。体の余る脂肪は落ち、筋肉が見えるようになった。(最近は腹筋以外の筋トレもしている)

髪も散髪屋などでしっかりと整え、毎日ヘアーアイロンを風呂上がり、寝起き、出かける前にかけている。そして、肌にも気を使っている。化粧水、その他のクリームなど、ローションも。そして、極めつけのメイク。これの俺の変わりようにはとても驚いた。

もともと一重だった目を二重に変え、肌の色をファンデーション、化粧下地の日焼け止めでトーンアップ。その他も色々試してみた。(やはり男なので一目見て分からない程度に済ます)

やってみるとメイクってすごく楽しい。


そして渋谷での声がけも、メイクとヘアーアイロンをしたら格段に成功確率もあがった。


そう、人は綺麗に、美人に、かっこよくなろうとしてるから美しく見える。

こんな考えは、浅いものだと思っていた。けれど、そんなことないということに気付かされた。とても深く、楽しい。


俺は、人生に楽しみを見つけた。


そして俺は陽キャになってスクールカーストの頂点を目指す──



そのために、歩んできた。


その道がある。

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