第5話 決意と解決

「というわけで協力しろ」

「何でワシがそんなもんに協力する必要があるのじゃ? お前らは黙ってワシを守ればよいではないか。そうすればポイントが溜まってお前らより頼れるガーディアンを召喚し、お前らはお払い箱だ」

「てっめ、ざっけんなコラ、今すぐ消滅させてやんぞ腐れぬいぐるみがっ!」

「みぎゃああああああああああ!」


 翌朝、ニギルとバベちゃんは相変わらず犬猿の仲だった。


「落ち着いてよ! ダンジョンマスターを倒しちゃったらあたしたちどうなるのよ!」 


 取っ組み合いというか、一方的にぬいぐるみを雑巾でも絞るようにねじるニギルを葉子が取り押さえながら言う。


「とにかく、あたしたちはこの迷宮をよく調べたいのよ。ポイントを稼ぐ仕組みとかよくわからないし、この状況に納得できてないってのはあるけどさ」


 迷宮やポイントなどという情報は、全てバベちゃんが話したものだ。そこに客観的な視点はなく、何が正しくて、何が間違っているのかわからないし、それぞれの立場によって見え方が変わるということもあるだろう。

 だからこそ、全員でまずは迷宮とやらを体験してみようという話にまとまったのだ。


 それに、何もしなければ電力不足でカオスの塔は使えなくなる。そうなれば、帰るどころか、生き続ける事すら怪しくなる。今はまず水を手に入れられる可能性を最優先に考えていた。


「私たちを迷宮の入り口に送ってほしいの」

「お、お前らはワシを守る義務があるじゃろうが……」

「ふーん。まさかダンジョンマスターともあろう者が、自分の迷宮の中で転移させることもできないのかな?」

「馬鹿にするでない! 朝飯前じゃ!」

「お前そのナリで飯が食えるのかよ!」

「ニギルはちょっと黙っててください」美香がニギルを羽交い絞めにして口をふさぐ。


 その間に、いちごがいくつかの質問をしてバベちゃんから回答を得た。


1、バベちゃんは迷宮内であればポイントを使って誰でも任意に転移させることができる。

2、五人はバベちゃんによって召喚された立場なので、迷宮にいてもポイントにはならない。

3、五人は召喚された立場ではあるが、迷宮内の知能の低い魔獣に襲われる。

4、五人が魔獣を倒すと、その補充のためにポイントが必要になる。


「つまり、俺たちが迷宮で活動してもポイントにならないばかりか、襲ってくる魔獣を倒した分、補充のためにポイントが必要になるのか」

「なんで魔獣の補充が必要なの? そのままにすればいいんじゃないの?」

「アホか貴様は、倒す相手のいない迷宮に誰が入るというのじゃバカチンが!」

「バベちゃんは男子には特に厳しいみたいだね」


 バベちゃんとにらみ合う男子二人を葉子と美香が牽制けんせいする。


「と・に・か・く! 私たちを迷宮入口まで送って! それと武器を貸して」


 進まない状況にいちごが荒ぶりながらバベちゃんに手の平を向ける。


「お、お前らに貸す武器などない」

「私たちが死んだら、誰があなたを守るの?」

「……武器をワシに向けないという保証がなかろうが」

「あなたを〇〇すだけなら武器なんていらないけど?」


 いちごはポケットから剪定せんてい用のハサミを取り出しシャリシャリと音を立てる。


「ヒッ、この外道が! ワシが死んだら迷宮がどうなるかわからんぞ!」

「ふーん、試してみようか? 私は野菜と動物たちを守るためならなんでもするよ」いちごがバベちゃんの頭をわしづかみにして静かな声で問う。


「があぁっ、そ、そこの備品箱の中に、武器や装備が!」

「潰れる前に言えてえらいえらい」


 バベちゃんから手を放しながら、にこやかに笑ういちごを見て、彼女だけは怒らせてはいけないと四人は震えていた。


「ほらみんな、武器を選ぼう」いちごが皆を手招きする。


 豪華な椅子の裏に置かれていた箱は、1メートルの立方体で上部の面が開くようになっていた。

 いちごが無造作に蓋を開くと、中には様々なモノが転がっていた。

 剣、槍、盾や鎧、小手やマント、楽器のようなものから料理道具のようなものまで、散らかった箱の中は、子どもが大切にするおもちゃ箱のように思えた。


「ちょっとバベちゃん、どれが何だかわからないよ」

「これ、乱暴に扱うでないわ! 本来なら持つことも叶わぬ至高しこうの一品ばかりじゃぞ! 高かったんじゃぞ!」


 いちごがひょいひょいと箱から取り出すたびにバベちゃんが悲鳴を上げる。


「これもみんなポイントで買ったの?」

「いかにも。こういった魔道具や武器防具を迷宮内の宝箱に設置して浅ましい人間をおびき寄せるのだ」


 葉子の質問にドヤるバベちゃん。


「ではなぜそれがここに?」


 おびき寄せるための餌を釣り場に入れずに何を釣ろうというのか、という美香の疑問はもっともだった。


「もったいないではないか」

「……てめえ、迷宮経営をなんだと思ってんだ! アニメや漫画の中のダンジョンマスターに謝れや!」


 そんな騒ぎをよそに、いちごは備品箱の中からソフトボール大の青い球体を取り上げバベちゃんに問う。


「バベちゃん、これ、何?」

「む、これは三層の階層主を倒すとでてくるはずの“水珠”ではないか」

「……それはどんな道具なの?」

「つまらん道具じゃ、迷宮内に限り水が湧き続けるという、ただそれだけのモノじゃ」


 バベちゃんは本当につまらなそうに、そっぽを向いてそう言った。

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