第7話 PKのトレーニング

それなのに微笑みながら礼を言った。おかしい!

 見下してからかっている相手が、一瞬自分より上に感じた。苛立ちも感じた。でも、一瞬だけ、

――かなわないな。

と思った。葉月が恵子をそう認識したのは、それがきっかけである。


施設に来て一ヶ月が経った。努力のせいか、恵子は話せるようになった。相部屋の子はワガママだが、恵子の我があまり強くないのでうまくやっている。なんと相部屋は葉月。施設の人は心の声はあまりよくないが、表面上は優しくしてくれている。それだけで十分だ。ご飯もおいしい。

「恵子ちゃん、恵子ちゃん」

「今度は何?」 

 ちょっとワガママなところがある葉月。さいしょは嫌がらせも度々受けたが、毎回恵子が困った顔をしながらも受け止めるのでなつかれてしまった。恵子の方が少し年上な点もあり、いたずら好きの妹と姉、といった雰囲気だ。書くのはまだ苦手だが、恵子はおしゃべりが前とは別人のようにできるようになった。

「恵子ちゃん、博士が会いにきたわよ」

 恵子を施設へ連れてきた博士は時々恵子に会いにくる。最初は絵本とかパズルをお土産に持ってきたが、最近は能力、PKの話と訓練をしてくれる。話すことができる前は、ともかく言語の授業が多かったが、今は国の宝であるPKの練習が多くなっている。

「一週間ぶりだね。元気にしてた?」

「はい」

 相変わらず人当たりの良さそうな博士は、PKを指導してくれた。

「心の声は時に人を傷つける。PKを使う時には施設を傷つけないように気を付けるんだ。専用の部屋もあるから、トレーニングするといい。上手になったら、僕と一緒に仕事をしよう」

 ――この短期間でうまくなったな。

 優しい、博士の声。心の声も優しい。この偽装の声は。

 本当は、

――捨て子だが使えそうだな。拾ってよかった。

 恵子を褒める声は偽装して、本当は冷たいことを考えていた。博士の得意とするPKは、心の声の偽装。PKを持つ同士でないと効果のない能力だが、関係を構築する時に利用しやすい能力だ。

「よし、じゃあこれを壊してみて」

 木材でできた箱を壊す訓練。恵子の弱点はコントロールだった。

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