第5話 初めてのことばかり
「この無駄飯ぐらい、早く死んじまいな……」
職員は聞かないふりをした。もともとPKを持っている児童を集めているため、職員たちの心の声が子どもたちに聞こえても特に気にしないのだ。監視カメラに心の声は写らない。児童が変なことを言っただけとなる。
「このカレーは甘口だから食べやすいわよ」
――あんたみたいなろくでなしを傷つけてお金を儲けてやるわよ。
恵子はもくもくとカレーを食べた。研究所でも食べたことがあった。材料を煮込んでご飯にかけるだけ。週に一度は出てきた。
少女は、部屋に鍵がかかっているわけではないので、ふらふらと外に出てみた。自分と同じかそれより幼い子どもがたくさんいるように感じた。
自分より小さい子どもが話しかけてきた。ツインテールでスカートを履いている。十歳くらいだろうか。
「お姉ちゃんどこから来たの?」
恵子は話さなかった。分からないから。
「しゃべれないの?」
――次のターゲットかな。
「私は葉月。よろしくね」
幼い葉月が去って行くのを見て、恵子は
「次のターゲットかな」
言葉の意味も知らないで呟いて部屋へ戻ろうとした。だが道が分からなくなってしまった。研究所ではいつも案内されていたのだ。
消灯時間になっても部屋に戻れない恵子を見て、職員が部屋に連れて行ってくれた。
「明日施設を案内するね。今日は迷子にさせてごめんね」
部屋に入って声をかけられた。
「お休み」
――お休み。
あたたかい、無意識に恵子は微笑んだ。全部でなくていい。ずっと優しくしてくれなくていい。少しの言葉でいいから、ぬくもりがほしい。ぬくもりがほしかった。敵意をもたれていい。投げつけられてもいい。それでも、言葉がほしかった。
眠っている間に、つうと涙が頬を伝った。なんで泣いたのか、恵子にも分からなかった。おそらく、恵子を見ている人にも。
淋しい。誰かに受け入れらたい。認められたい。そんな気持ちがうごめいて、風がさわさわと凪いでいく。どんな夢を見ているか、自分がなにを考えているか、言葉は分からなくても、感じる何かは、あった。
恵子が寝ている間の星空は、美しかった。
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