第4話 彼女の名前が決まった
実際はPKを持っている児童の隔離施設だった。
――ここから出して、出して。
――こんなとこもうイヤだ。
声にならない心の声が騒いでいた。彼女は戸惑いながらも警官と手をつなぎ、施設の中に入っていった。
――金がまた入ってきた。PKを持っている子どもが増えると国から金が入る。
そんなPKが入ってきた。どうやらPKがある子どもが入ると国から補助金が入ってくるらしい。
「こんばんは、その子が保護する少女ですか?」
ゆったりとした中年女性が声をかけてきた。ふくよかな笑顔の女性。しかし心の声は、
――しゃべれないなら好都合。心の傷につけこめばお金は自動的に増えていく。
少女をお金としか見ていなかった。
「名前がないと不便ですね。今恵みの雨がふっているので、恵子はどうでしょう。恵まれた子どもとなるように」
手を握るというよりは手首をつかんで移動させられる。恵子は不安が募った。自分の意思もまだないけど、研究所と違い、ここでは言葉をかけられる。
――この子どものPKで、どう国から札束を手に入れるか。
「起床が六時半。食事が決められた時間に三回。お風呂が週四日。平日のお勉強もありますが、恵子ちゃんは言葉の勉強にしましょう。十二才まで言語に触れないで居ると、言葉を習得することが難しくなります。言葉を一刻も早く理解して、お友達を増やしましょう」
相性の良さそうな子と相部屋になるため、今は体験部屋で過ごすことになった。耳は聞こえている。話せる言葉もある。だけど語彙量がない。恵子は今まで言語とふれあってこなかったから。
――ここから出して
――もうここはイヤだ
心の声が彼女には届かない。理解できないから。肌で感じる。自分はとんでもないところに預けられたのではないかと。
こうして、彼女、名がついた彼女は恵子と呼ばれる。恵子は研究所にいたときと、それほど変わらないかも知れない。字を覚えたり、あいさつを覚えたりするのは大事なことだ。この施設はどうしてこんなにイヤな気に満ちているのだろう。
子どもたちは皆不安だった。みな何か問題があってこの施設に送られている。でも恵子はしゃべれない。言葉を繰り返したり、多く話されたりした単語を発することはできても、十二才までほぼ話す人がいなかった。会話をスムーズに行うのには努力が必要だろう。
「恵子ちゃん、ご飯はカレーだよ」
――この無駄飯ぐらい、早く死んじまいな!
にこにこ笑顔を浮かべながら悪態を心で行う、という器用な技をここの職員は持っていた。
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