第3話 甘くてやさしいココアのぬくもり
優しい心の声がした。彼は博士と名乗った。握ってもらった手は温かかった。
ガチャン。
箱からホットココアの缶を取り出した。
「暖まるから、これを飲んで」
冷えた身体に自身のコートをかけてくれた。人に優しくされたのは、初めてだった。
「こんなところでどうしたの? お父さんかお母さんは?」
言葉を知らない彼女は、博士の言葉が分からなかった。
「イラナイノニ」
彼女が覚えた言葉は、博士の眉をしかめさせた。
なにか事情があるのだろう。
博士は優しい心の声を出した。彼女はコートに、ココアに温められていく。
彼女は心が温まるのを感じた。分からない、彼女には分からないけど、安心した。博士といれば大丈夫だと思った。
それは錯覚だった。
博士は彼女よりもハイレベルな「PK」の持ち主だった。閉心術を使い、心の声を偽装した。優しく温かく感じたモノは全てあやかし。博士は冷たい人間だった。
――いいカモが見つかった。
「今からキミを守ってくれるところに行くね」
会話ができずとも、優しい声、偽装した心の声で彼女の警戒心を解く博士。腕時計型の電信機器でメッセージを送る。
(海で死にかけの女児を保護。至急応援を頼む。どうやらPKを持っているようだ)
応援を頼んで、博士は彼女と過ごした。
「大丈夫だよ、もう大丈夫」
柔らかな声、温かい手のぬくもり…………。彼女が博士に関心を持った頃、警官がやってきた。
「保護した少女はこちらの子ですか?」
「少女を迎えにきました。A施設に入所を希望しています」
「ああ、彼女だよ。どうやら話せないらしい。おそらく目も見えているし耳も聞こえているみたいだ」
複数の警官に博士が答える。
警官に手をとられて博士と距離が生まれる。少女が思わず博士を見つめると、博士は手を振った。
「また会えるよ」
と言い残し――。
パトカーで輸送されたA施設は、子どもが騒いでいた。高校生以下の子どもを集めた施設。
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