第26話
地面を転がる魔王の首に地面へと倒れる魔王の体。
それらから一切の力も意思も感じられない……確実に、魔王は息絶えていた。
「ふっ……全部、想定通り」
遥か遠方。
島を超えて海を挟み、幾つもの街を超えて優に数十キロ離れたその先の山奥。
そこから神懸かり的な射撃で魔王を撃ちぬいてくれたマリアに手を振ることでひとまずの労をねぎらう。
魔法を用いることで数十キロ先離れた場所からここを己の視力で見ることが出来るマリア様にしかと僕の行為は目に映ってくれていることだろう。
「あー、おやすみなさい」
王の冠の影響。
未だに僕へと色濃く影響を与えているその神威。
魔王が完全に死に絶え、周りに敵がいないことも確認した僕はその影響に抗うのをやめ、サクッと意識を失った……魔族完膚なきまでに叩きのめして全滅させておいて良かった!
■■■■■
魔王討伐。
そのあとも僕の仕事は残っている。
多くの亜人国家が壊滅的な被害を受け、トンロ皇国の全面降伏で終結したタレシア王国とドレシア帝国以外誰も得しなかった亜人戦争の講和条約。
世界の覇権を握る二大大国であるタレシア王国とドレシア帝国間で結んだ軍事条約の今後。
魔王が住まう島……魔王が死した今はもう誰の影響下でもない大陸中央部の島をどうするのか。
主な問題は外交面に関するものだ。
しかし、だからと言って内政に関する問題がないわけではない。
僕の権力関係を大いに荒したので、それの後処理をしなきゃいけないと、国内に魔族は残っていないかの確認も必要だ。
「んー、やっぱりそうなのか……」
魔王の肉片を喰らったものは人から魔族へとその身を落とす……ゲームではフォーエンス公爵家がその身を魔族へと落とした。
この世界で魔族へとその身を落としたのはゲームの主人公であった。
「……多分、他にもいると思うんだよなぁ」
魔王の肉片の数は少ないため、魔族にさせられた人間の数はかなり少数だと思うのだが……その数がゲームの主人公一人というわけではないだろう。
ちなみに勇者が史実と違って闇落ちしたのは多分だけど僕のせいだ。
史実ではフォーエンス公爵家が丸ごと闇落ちしたせいでタレシア王国の国力が信じられないほどに低下。
なんとか盛り返そうと国単位で平民の中から全力で優秀な人間を探した結果、圧倒的な才能を持っていた平民であるゲームの主人公が見つかり、見事本編ルートに入ることになると思うのだが……フォーエンス公爵家が闇落ちしなかったせいで国も熱心に原石の発掘をせず、原石として見つけられることのなかったゲームの主人公へと国の代わりに魔族が目をつけ、そのまま闇落ちさせたのだろう。
自分の行為が招いた最悪の行為による今回の件の結果……もう当分表舞台には出たくない。
「あー、だる」
魔王討伐のお祝いムードで世界がお祭り騒ぎの中、僕はぶさくさと文句を言いながら自業自得な気もする大量の後処理に翻弄されているのだった。
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