第25話

 ここまで翻弄され続ける魔王……だが、これで終わるような玉では決してない。


「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああッ!!!」

 

 四本の剣で体を貫かれ、ふらふらになりながらも力強く地面に立つ魔王は世界を震わすほどの咆哮を一つ。


「『悪鬼』」

 

 それを受け、僕は自分の切り札である悪鬼を切り、防御姿勢へと入る。


 

「───王の冠」

 

 

 僕でも使える生物最高位の術たる『神威』。

 それを魔王が使えぬはずもなし……長きに渡っての準備を必要とする僕の神威とは違い、自身の総魔力のうち、半分を使うことで一瞬で発動出来る魔王の神威である王の冠。


「……ぁ」


 その魔法の効果はシンプルにして強力。

 自分の周囲に存在する全生命の意識の強制シャットアウトである。


「……ッ」

 

 魔王による神威発動を受けて。

 シャルルも、リーリエも、キリエも、ラレシアも……等しく全員が容易く意識を奪われ、気絶する中。

 それでも僕は辛うじて意識を残していた。


「そうか……」

 

 この世界の特異点。

 もはやそう呼ぶことしか出来ない圧倒的な力を持っていたゲームの主人公はありとあらゆる『神威』を無効化する。

 当然、魔王の王の冠も無効化するため、魔王を前にしても意識を保っていられる。

 だからこそ、魔王を倒せるのは勇者だけだったのだ。


「お前はあの男の子孫であったが」


 そんな中、凡夫でしかない僕が意識を保っていられるのは悪鬼のおかげ。

 かつて、魔王と戦い、なんとかその身を封印することに成功した僕のご先祖様が王の冠に対抗するために作り上げ、代々自分の血を引く者に受け継がせていた『悪鬼』のおかげであった。


「だが……惜しかったな。そのちんけな代物は我を殺すには至らなかった」

 

 自身の持つ魔力のほとんどを失い、自分の身を守る結界の発動すら覚束ない魔王……だが、王の冠による影響を完全に防ぎきれず、辛うじて意識を残すだけ。

 手足の感覚すらおぼつかず、今にも倒れそうな僕が魔王を倒すことなど不可能……。


「さようならだ」


 僕の死をトリガーとする魔法、神威がないことを入念に確認した魔王は僕の首元に向かって魔剣を振り下ろす。


「……ぁ?」

 

 その魔剣を僕が避ける……よりも早くに。

 遥か遠方より音速に匹敵し得るほどの速度で放たれた一本の弓矢が魔王の身を貫く。


「……ぬぁッ!!!」

 

 自らの身を守られる結界を突き破って自らの身を貫いた一本の弓矢を受け、大きく態勢を崩した魔王。


「……まッ!!!」


 その一瞬の隙。

 

「さようなら」


 それだけあればの猶予があまりにも充分。


「……ば……ぁ」

 

 一刀。

 決着は致命的な隙を晒す魔王の首に向かって放たれた僕の一刀がすべてを断ちきった。

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