第17話
オレゴスが復活してからまだ一時間も経っていないだろう。
しかし、それでも現在の世界情勢並びに魔族の状況に加えて、最後に残された魔族の拠点へと訪れた僕と言う存在でもって。
「なるほど……我らの策は失敗。すべて喰われたか」
オレゴスは前哨戦で魔族が人類に敗北したことを悟る。
「その通り。察しが良くて助かるよ」
僕はオレゴスの言葉に笑顔で頷く。
「……き」
魔王軍の頭脳であり、智将。
世界で最も気高く、優れた頭脳を持つと言われた過去の天才たるオレゴスが、現在の世界を自らの手の上で転がす現代の異世界転生者たる僕へと声をかけようと口を開く。
『喝采せよ、恐れよ、ひれ伏せよ、王の。魔王の帰還である』
そんなときであった。
僕たちの頭に……全世界に住まう生きとし生きる者すべての頭の中に禍々しい声が響いてきたのは。
「ば、馬鹿なッ!?早すぎる!!!」
『今宵、魔王は復活した。震えて死ね、我が世界を返してもらうぞ』
ありえない。
本来であればありえないタイミングでの魔法復活……魔王が復活すると同時に自動的に全世界へと告げられる地獄の声を前にして動揺するオレゴスへと僕は笑みを見せる。
「人の死者。魂。その力……魔王復活の、封印を解除するための鍵。それは僕の手の中だ」
魔王と言う存在が全て、僕の手の平の上。
復活のタイミングも、状況も、僕の想定通りに。
「……ッ!!!貴様だけは刺し違えてもォッ!!!!!」
流石は智将と呼ばれ、恐れられるだけの男ではある。
僕と言う存在の脅威を、魔王を弑する可能性すらも孕む僕の危険度を明確に理解し、自分と言う存在を犠牲にしても僕を殺そうと手を伸ばしてくる。
「残念、あまりにも後手すぎる」
決死の覚悟が込められたオレゴスの手は、僕の体をすり抜ける。
「……す、すり抜け」
「おばけ」
「……ッ!?」
オレゴスは僕の言葉に体を震わせ、警戒心をあらわにする。
「僕がじゃない……君たちが、だ」
「……は?」
既にこの場はとっくに終わっている。
戦闘など起こるはずもない。
「『冥界降臨』」
僕が数年単位で準備していた秘術。
人類が到達し得る限界を超え、神の頂に届いた。
まさに頂点と呼ぶに相応しき魔法……否、『神威』。
「悪いね、みんながびっくりするようなことが起きるタイミングで戻るって約束しちゃっているんだ」
まるで最初から何もなかったかのように解けて消えた街。
そこにいたオレゴス並びに人類社会を蝕んでいた魔族たち、そして街の住民……その何もかもを巻き込み、羽虫一つとして残さず消えてなくなった街から僕は転移でもってその場を後にするのだった。
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