第16話

 魔族による人類社会の暗躍。

 数百年単位、数世代かけて続けられたその暗躍は人類の知らぬところで、たが確実に人類社会を蝕んでいた。

 それもすべては来たる魔王復活の為。

 迅速かつ的確な人類侵攻を成し遂げるための魔族たちの策であった。


「……クソッ、どうなっているのだ」

 

 長年、人類社会の闇を牛耳っていた魔族たち……だが、ここ最近。

 魔族たちは急速に力を失っていた。

 どういうわけか、いともたやすく信頼を獲得して世界各国の王侯貴族と黒い繋がりを持ち、急速に力を増してきた幾つもの犯罪組織が魔族たちが元々持っていた闇の世界を荒し、その居場所を急速に奪っていったのだ。


 それだけじゃない。

 唐突に始めたトンロ皇国の亜人戦争に、タレシア王国並びにドレシア帝国の侵攻。

 世界各国で巻き起こるブレノア教徒の反乱、暴動のせいで世界各地に散っていた魔族の数はそれらに巻き込まれる形で急速に減らし、その拠点のほぼすべてが破壊された。

 

 もはや情報網すらも途絶え、世界の情報も、自分たちの同胞がどうなっているのかすらもわからなくなった現状を前に魔族たちは頭を抱える他ない。


「どう、すればいいの?」

 

 自分の祖先たちが築いてきた盤石な地位に安住し、ただ最低限の職務をこなすだけであった現代の魔族が全て、イレギュラーな事態に対する耐性がなく、どう動けばわからず右往左往する事態となっていた。


「……どうなっておる。我ら、魔族の状況はどうなっているのだ」

 

 魔族たちの頭に当たる幹部級の数名が集まって連日会議を行っても具体的な対策案が出てこないという絶望と言う他ない状況下で。

 新しい声が響く。


「な、何奴!?」


「己の上に立つ者の顔くらい覚えておけ。我は魔王軍四天王が一人、オレゴスだ。少し前に復活した」

 

 魔王と共に封印された四天王の一人……かつて、智将と称されていた男が途方に暮れる魔族たちの前に現れる。


「まぁ、そんなもの意味はないんですけどね」

 

 そして、また。

 新しい声が響く……まぁ、僕なんですけど。


「な、何奴!?」


「残念、今度は敵……タレシア王国フォーエンス公爵家暫定当主。敵の首魁の顔くらい覚えていた方が良いよ?」

 

 魔族たちにとって残された最後の拠点へと転移魔法で一人、侵入してきた僕は笑みを浮かべ、口を開いた。

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