最終章

第1話

 波乱の学校対抗試合から早いことでもう一ヶ月。

 この日、フォーエンス公爵家を揺るがす大事件が巻き起ころうとしていた。


「お父様。あなたには会計不正の容疑がかけられています……大人しく自分にお縄についてもらえますか?」

 

 お父様の執務室。

 そこに多くの騎士を伴ってやってきた僕はお父様へと剣を突きつけながら口を開く。

 

 お父様にかけられた容疑である会計不正……そんなものは嘘っぱちである。

 これはただのクーデター。

 僕がフォーエンス公爵家当主の座に就くための方便でしかない……だが、既に根回しは済んでいる。

 お父様が何をしようとも流れは変えられない。

 この日のために僕は細心の注意を払って動いてきたのだ。


「……そうか」

 

 突然の僕の行い。

 それに対してお父様はただ上を見上げて一言つぶやく。


「抵抗すれば荒事にせざるを得ません」


「いや、抵抗はしないとも。お前の行動のすべてを受け入れる」


「……」


 お父様は何も持たずに立ち上がり、自身が来ていた上着を脱いで机の上へと置く。


「お父様を連れて行け……あくまでまだ容疑者だ。丁重に扱えよ?」


「「「はっ」」」

 

 完全に僕の下についている騎士たちは僕の言葉に頷き、お父様を取り囲む。


「それで?私は何処に行けば良いのだ?」


「自分らについてきてください」


「うむ……抑えずとも逃げはせぬ」

 

 お父様は何も逆らうこともなく周りの騎士たちに従って歩を進め……騎士たちへと連行されていく。。


「お前に期待を、かけすぎてしまったな……悪かった」


 お父様は去り際。

 僕に向けて謝罪の言葉を口にする。


「……いえ、お父様の期待に添えぬ無能で申し訳ありません」

 

 誰もいなくなったフォーエンス公爵家当主のための執務室。

 僕はそこで小さな声でぼそりとつぶやき、お父様の残した上着を持ち上げる。


「……はぁー」


 フォーエンス公爵家現当主であるガイア・フォーエンスの投獄。

 それに伴って空席となったフォーエンス公爵家の当主の座には嫡男であった僕が暫定的に就くのであった。

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