第40話
「ちょっと煽りすぎな気がするけどこれでよかったの?」
「構わん。どうせ我が国など印象最悪なのだ。今更お前の言葉一つでその印象が変わることはない。長年肥沃の大地の主として君臨し、世界のありとあらゆる国々と戦争してきた我らと他国の間にあるのは利益のみよ」
「だからって煽る必要もなかったと思うんだけど」
「お前なら意味もわかるだろう……亜人の動きが活発化してきておる。お前には世界の悪役になってもらいたいのだ」
「はぁー、それを息子に言うかね」
多くの者が寝静まった深夜。
僕はお父様と小さな個室で密会を行っていた。
「……魔王が復活する。今より数百年前に暴れた怪物が。当時、魔王と戦った者たちの子孫である我らの一族が何もしないわけにはいくまい。ここでお前は憎たらしいが圧倒的な強者となってもらう」
「はぁー。他人の前で英雄のようにふるまい、人々を奮い立たせて先導出来ないからって憎たらしい奴から煽られ、その悔しさをばねに奮起するのを促すとかどんな策だよ」
「案外貴族連中には効くのだよ」
前世の世界じゃ絶対にありえない作戦だ。
「……お父様は昔の伝説に縛られすぎなんだよ」
魔王。
亜人種の中でも際立った強者であり、血に飢えた種族である魔族を率いるその最強の王は今から356年前に現れた。
それを当時の英雄たちが魔王を倒したのだ……多くの人の血が流れぬよう、自分たち数名で魔王軍をぶち抜き、魔王城に単身乗り込み、魔王を封印するという荒業でもって魔王軍を潰したのだ。
頭を失った魔族は統率を失い、烏合の衆へと成り果てた。
魔王を失った魔族たちは自分たちの巣へと大人しく逃げ帰った……魔族たちはかなり特殊な種族で魔王がいなければ力を発揮できないのだ。
魔王軍と戦うのであれば魔王を倒すのが一番出血が少なくて済む。
お父様が僕に望んでいるのはこれだ。
「……?」
「じゃあ、僕はもうそろそろ行くよ。明日の試合のためにも少しくらいは寝ておきたい」
かつての英雄のように、すべてをぶち抜いて魔王を倒すなんて芸当を出来るのは僕でなく主人公である……お父様がどれだけ僕を過去の英雄と重ね、期待していたとしても無理なものは無理である。
今は乗る。
だが、お父様の計画には参加しない。
勇者がいればそれでいい……もし、いないのならその時は……ッ!
「そうか……最後に聞くが、決勝戦の相手であるオーエンス卿には勝てるのか?」
「当然。ただの学生に負けるつもりはないよ」
僕はお父様の言葉に軽々しく答え、この場を後にした。
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