第31話

 タレシア王国において最も早くロワール小国へと入国したのがフォーエンス公爵家であった。

 次に現地入りしたのが今回子息、子女が学校対抗試合に参加しないその他の三大公爵家。

 そしてその次に来たのがタレシア王国の王族である。

 

 学校対抗試合においてタレシア王国は伝統的に王族は四大公爵家がロワール小国に入国した後にロワール小国へと入国することになっている。

 今回も例にもれずそのパターンであった。


「アレス様……お菓子を作ってきました。い、一緒に食べませんか?」


「えぇ、良いですよ」

 

 嬉々とした表情で僕が宿泊する部屋へと入ってきたマリア様の言葉に僕は笑顔で頷き、彼女を部屋に招き入れる。

 

 むむぅ……順調にマリア様との距離が近づいている。

 主人公が居ないという状況下でいつまでもマリア様を落ちこぼれのままとしていては対魔王戦の戦力が心許なくなってしまう。

 なので、僕が彼女を鍛えるのは必要なことであり、致し方ないところもあるのだが……それでも僕はいつでもメインストーリーから離脱出来るような立場でいるのが理想だ。


「この日のために一人で練習してきたんです……お口に合うと良いのですが、味見をしているのが私だけでちょっと自信ないんですけど……」


 まぁ、マリア様の僕への好感度の高さを見るに無理やろなぁ……何ならシャルルからの好感度も高いし。


 止めと言わんばかりにメインストーリーにも関わりを持っているロンドル殿下との関係も持っちゃったし。

 ……僕ってば自分の思惑とは全然そぐわない行動をしてばっかじゃん。萎えそう。


「ご安心ください、美味しいですよ」

 

 宿屋に元々置かれていたテーブルの上に広げられているマリア様お手製のお菓子を頂きながら、これを作ってくれた彼女を褒める。

 

「紅茶を淹れる腕もしっかりと向上している」

 

 マリア様が淹れてくれた紅茶の味の良さに頷きながらこっちの方面でも彼女を褒める。


「ふ、ふへへ……ありがとうございますぅ」

 

 僕の言葉を受け、マリア様は少し卑屈で引き攣りながらも実に嬉しそうな満面の笑みを浮かべたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る