第30話

 ロンドル殿下に声をかけられた僕はそちらの方へと視線を移す。


「いえいえ、場の騒動を収めるのも上に立つ者の役目でございますから。これくらいは当然のことにございます」


「うっ……すまない。場を乱してしまって」


 僕の言葉を聞いたロンドル殿下はバツが悪そうに眉を下げる。


「本来であればこのような場で先に侮蔑の感情を露わにした向こう側の責であり、ロンドル殿下が謝るようなことではございませんと言いたいところですが……ロンドル殿下は少々口が粗暴にございます。不躾とは存じますが、少々口調を改められたほうがよろしいでしょう」


「うっ……そうだな」


 ロンドル殿下は僕の言葉を受けて項垂れ、素直に頷く。


「あっ、そうですね」


「私は一介の公爵家であり、ロンドル殿下は獣人族の王族。敬語まで使う必要はございませんよ」


「あ、あぁ……そうか。うぅん。忠告感謝する。フォーエンス卿。我ら獣人は此度の件を忘れはせぬ。助かった、感謝する」


「今後ともフォーエンス公爵家並びにタレシア王国をよろしくおねがいします」


「うむ」

 

 僕の言葉にロンドル殿下は深々と頷いたのだった。


 ■■■■■

 

 ちょっとした波乱が巻き起こってしまった学校対抗試合前のパーティー。

 そこから学校対抗試合が行われる期間の間、フォーエンス公爵家一行が宿泊する最高級の宿屋の一室へと帰ってきた僕は魔法で自分の体を清めた後、ベッドの方へと体を倒す。


「あぁー、疲れたぁ」

 

 オーエンス卿とロンドル殿下の諍いも当然疲れる要因ではあったが……僕の婚約者となれないかと接触してくる各国の王侯貴族の次女、三女とのやり取りが本当に大変だった。

 

 これが一番大変だったと言える。

 時折、各国の王女や公爵家の長女……絶対に失礼があってはいけない人からの接触もあったりして大変だった。


「外交の場とかほんと面倒」

 

 外交の場において華やかさなど何もない。

 タレーランやビスマルクのように世界を動かすような外交は稀で、基本的には各国の見栄の張り合いにわずかばかりの利害のすり合わせが主。

 地味だし、面倒。


「あぁー、あとはお父様に任せて僕はもう寝る」

 

 時刻はもう既に夜も更ける頃。

 ワイングラスを傾ける大人の時間だ。

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