第15話

「は、わっ……ぁ」

 

 恵まれた生まれでもなければ普通入ることが出来ぬほどの高級料亭に訪れ、困惑しきりの少女。


「さぁ、座って?」


 そんな少女を横目に僕は頭を高速に回転させる。

 

 不味い、非常に不味い。

 自分で散々かき乱したのだ……原作とは違うルートに行くことは想定していた。

 だが、ゲームの主人公の存在がそもそもいないなんてイレギュラーは想定していなかった。 

 あいつが居ないと結構キツイぞ、これ。

 

 ご都合主義を引き寄せる勇者の第六感に加えて、純粋な力と他人を引き寄せるカリスマがあったからこそ人類は魔王率いる魔族に勝つことが出来たと言えるのだ。

 ……これ、僕がゲームの主人公の代わりをしなきゃいけない流れか?

 僕に第六感なんてないぞ……原作知識も絶対のものじゃないし、あの無茶苦茶な主人公の代わりなんて僕でも荷が重いのだが。


「い、いや、わ、私がこんなきれいな椅子にはす、座れないです……その、床とかとかで十分ですから」


「気にすることはないよ。どうせ誰が使おうとも物はいずれ汚れる。気にするようなことではない。椅子など汚れてなんぼだ」


「で、ですが……」


 いや、そんな思考は後か。

 とりあえずは目の前の少女のことが最優先。


 今は無きこの大陸を席巻した長い歴史を持っていた覇権国たるロンズ帝国が誕生するよりも遥か昔。

 

 製鉄技術を独占するコロン帝国と高度な文明力を持ったレスタン王国、海洋貿易を独占して巨万の富を築いていたレストリアを壊滅状態にまでもっていた古にして原始の魔王の血を引き継ぐスラム生まれの少女、シャルル。

 

 とにかく今は彼女の成長を促し、魔王への切り札に育てることに心血を注ぐのが最優先であろう。


「座りにいくいのであれば……命令してでも座ってもらうことになるけど?」


「す、座らせてもらいます」


「よろしい」

 

 男たちのせいで無残なことになってしまった服の代わりに僕が臨時で渡した雑な服へと袖を通すシャルルが椅子に座ったのを見て僕は笑顔で頷いた。

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