第13話

 おかしい。

 おかしい。おかしい。おかしい。

 おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。


 魔法を使い、自身の気配を完全に消し去った僕は自分の脳内でぶつぶつと呟きながら学園内を歩く。

 ゲームの主人公は何があろうとも動じることなく自分の正義を信じて突っ走るような奴だった。

 

 そんなやつが学園に来ない?……ありえない。絶対に。

 ……そう、ありえないのだ。


「……どこにも、いない」

 

 学園中を探した。

 どの学年、どのクラスにもいなかった。


「どうなって、いやがる……」

 

 自分の子飼いの部下たちにも捜索させたが、ゲームの主人公に繋がるものが学園どころかこの世界にすらなかった。


「主人公不在とか……どうなっているんだよ……」

 

 僕は内心の動揺を押し殺し……いや、押し殺そうとしても押し殺しきれない動揺を抱きながら学園を抜け出して王都の方を歩く。


「物語はあそこから始まる。主人公とメインヒロインの邂逅。古の勇者の血を引く少年と古の魔法の血を引く少女の道が交差するとき、始めて物語が動くのだ」

 

 ゲームにおいて、主人公は何をとち狂ったのか。

 いきなりこの世界で最も大事な事件が起きている気がする!とか行って学園から抜け出し、王都を爆走するのだ。

 追いかけてくる先生から逃亡するチュートリアルなど後にも先にも『プトスィの刻時』くらいなものだろう。

 

 そんな印象に残る初っ端のイベントだったからこそ、僕の記憶の中にも色濃くこのイベントのことは記憶に残っている。


「……い、いや。助けて……」

 

 華やかで煌びやかな王都の裏側。

 所謂スラム街と呼ばれる貧民街へとやってきた僕は気配を消した状態で堂々とそこらへんに積まれている箱の上に座る。


「はっはっは!そんなか細い声で助けを求めたって誰にも助けに来ねぇよ!」

 

 少しだけ広いスラム街の広場のような場所で一人の少女が地面に倒れ伏し、それを囲むようにして汚い男たちが数人立っている。

 

 ……あの男の発言は間違いだ。

 必ず、ゲームの主人公様が助けに来てくれる。

 下衆な男たちから可憐なヒロインを助けてくれる勇者様が、主人公様が。


「いや……いやぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ」


「げへへへへ」


 下衆な男の魔の手が少女の体を掴み、そのまま強引に少女の簡素な服を切り裂く。

 それでも、ゲームの主人公様はこの場に駆けつけなかった。

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