第10話

 八歳となったときに二年ほど家を出て十歳になってようやく元いたフォーエンス家の方へと戻ってきた僕は更に二年の時を経て十二歳となっていた。


「……」

 

 毎週のように届くマリア様からの手紙に目も通さずに机の引き出しにしまった僕は立ちあがって制服がかけてあるクローゼットの方に向かう。


「学園……ぁあ。とうとうゲーム本編が始まってしまう……」

 

 この二年の間で。

 魔族たちの動きが水面下で活発化しており、フォーエンス家に魔族が接触してくることはなかったが、タレシア王国に限らずこの世界の様々な国の貴族へと魔族が接触していることを僕は確認している。

 

 一応牽制はしているが……すべてはカバーしきれない。

 順調とはいえぬまでも、だが、確実に魔族は勢力を伸ばしつつある。

 ゲーム同様、学園生活は波乱の生活になることは間違えない。


「行きたくねぇ」


 ゲーム『プトスィの刻時』の舞台であり、タレシア王国の全貴族の子供並びに国内の優秀な平民、海外からの留学生と多くの生徒を抱えるレイブ学園。

 十二歳から十八歳までの間を費やすことになる学園生活の始まりたる入学式を前にする僕は早速憂鬱な気分を抱える。

 

「領地の方に帰りたい。王都とか居たくねぇ……マリア様もいるし」


 レイブ学園は王都にあるため、当然僕も王都の方に在住している。

 王都に威を構えるフォーエンス家の屋敷、別荘に。


「はぁー」

 

 僕は深々とため息を吐きながら制服へと袖を通す……こうして制服を着ると前世の学園生活を思い出す。

 基本的に僕は小学校でも中学校でも高校でも男友達よりも女友達の方が多かったから、今世ではたくさん男友達も作りたいな。


「アレスー」

 

 そんなことを考えていると、部屋の扉がノックもなしに開かれる

 背が高くなりすぎてとうとう190cm台すら見えてきたお姉ちゃんが頭をかがめながら僕の部屋の中へと入ってくる……未だに全然身長が伸びない僕と同じ遺伝子を分け合っているんだよね?


 僕とお姉ちゃんの身長差とんでもないことになっているよ?もう抜けないよッ!普通は背の高いお姉ちゃんを将来弟が抜いて、見下ろしながらイケメンボイスを言うものじゃないのッ!?


「ちゃんと準備は出来ているようね。良かったわ……ふふっ。友達出来ると良いわね……二年もの間社交界に出ていなくてアレスは友達少ないから学校でちゃんと友達出来るかお姉ちゃん心配なんだけど……」


「まずお姉ちゃんは僕の心配よりも自分の婚約者を探す方が先じゃないかな?」


「はぅわぁ!?」


 二年の歳月を経て十二歳となった僕と同じようにお姉ちゃんも年をとっている。

 現在お姉ちゃんの年齢は十八歳。未だ未婚。

 

 僕は心配だよッ!!!

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