第6話

 フォーエンス家の方に戻ってからの僕は忙しい日々を過ごしていた。

 子供に任せるべきではない仕事を当然のように割り振られ、ほぼ毎日のようにレリシアと模擬戦を行うというハードな日々を送っていた。


「婚約者ぁ!?」

 

 そんなとある日。

 僕はお父様に執務室へと呼び出され、驚愕の言葉を聞かされていた。


「あくまで候補ではあるがな……お前に婚約者候補をつけることにしたのだ。そして、その娘さんとの顔合わせの日は今日だ」


「きょぉう!?」


「あぁ。逃げられぬようにするためにな……ついでに言うと後十分後だ。急いで準備してこい」


「はぁ!?ちょ、マジか!?……爺や!爺やぁー!!!」

 

 それを聞いた僕は大慌てで老執事を呼び、支度の準備を始めるのだった。


 ■■■■■


 公爵家の次期当主として恥ずかしくない服装に身を包み、アクセサリー類を身につけ、髪をセットする。

 ここまでを超特急で行い、5分ほどで済ませた僕はお父様のところへと戻ってきた。


「おぉ、早いな。もうちょっと時間かかるかと思っていたし、ここまできっちりとした衣装になるとは思わなかった」


「えぇ……顔合わせの日なのに雑な格好というわけにはいかないでしょう」


「親の贔屓目抜きにお前の見た目は他を圧倒する美しさだからな。ある程度恰好が雑でも顔と雰囲気で誤魔化せる」


「そんなので誤魔化したくはないよ……」


「真面目であるな」

 

 僕は自分の婚約者候補を迎え入れる応接室でお父様と言葉を交わしていた……大慌てで準備することになった僕とは違ってあらかじめしっかりとした準備を行っていたお父様の恰好は公爵家当主に相応しいものとなっている。


「それで?自分の婚約者はどなたなんです?」


「タレシア王国第三王女、マリア・タレシア様だ。お相手は王族であるが……お前がどうしても嫌なら断ることは可能だ。不敬罪故あまり声を大きくして言えないが、第三王女と我が家の次期当主であれば、建前はともかく事実としてはこちらの方が上だ。王族だからとそこまで下がる必要はない」


「えっ……?」

 

 マリア・タレシア。

 その名を聞いた僕は固まってしまった。

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