第5話
普段であれば静寂に包まれているはずのフォーエンス家が誇る白い宮殿の広い中庭。
そこに甲高い鉄と鉄がぶつかり合う音が響き渡っていた。
「アッハッハッハ!良いです!良いですよ!アレス様ッ!」
「くっ」
レリシア。
長き時を生きし古の存在であるハイエルフである彼女の持つ長き年月をかけて磨き上げられたその剣術は芸術の一言であり、彼女の名は剣聖としてこの世界を一人歩きしている。
とある縁でフォーエンス家と運命をともにすることになった彼女はゲームでも最強格の一人として登場する。
とはいえ、その登場回数はかなり少ないが。
初登場はアレス・フォーエンスを主人公たちが殺したときとなる。
レリシアは『剣聖』とだけ名乗り、勇者たちを死なない程度にフルボッコにしてからアレスの遺体を回収して去っていく。
以降、主人公がフォーエンス家の人間と出会う度に現れ、解放の手伝いを行い、その遺体を回収して去っていく。
そして、フォーエンス家の最期の一人となったテレア・フォーエンスを。
魔物たちの苗床となり、ゲームの主人公たちに助けられるやすぐに舌を噛みちぎって自害した彼女の遺体を回収して以降は登場がなくなる。
ゲームの裏設定集には彼女がその後の余生をとある森の片隅で、四つの墓所とともにその残りの生涯を過ごしたと記載されていた。
「その剣筋は模範のように美しく、お手本のように型どおりではまるでない。だが!だが!だがッ!敵を殺すために荒々しく、一切の無駄なく洗練されつつあるその太刀筋は実に……素晴らしいッ!」
そんなレリシアは今、僕の目の前で心底楽しそうに剣を振るっていた。
剣聖の名に恥じぬその剣を。
「ぬ、ぬぬぬ……」
僕とて成長したつもりであるが……その剣はあまりにも遠かった。
思ったよりも遠いね!?
「やはり天賦が才覚!これが才能!天才か!私の技術を、私の人生を!あの人の子供に映している!なんという幸せ!これが残し、託す者の気持ち!」
楽しそうに話すレリシアの言葉へと返答する余裕も僕にはない。
全神経を尖らせて彼女の剣に集中して僕はことに当たる。
「……ぁ」
それから数分ばかり。
とうとう僕の手から一つの短剣がレリシアの長剣に弾き飛ばされ……そして、その流れでもう一つの短剣も弾き飛ばされる。
「終わりです」
武器を失った僕の首筋にレリシアの剣が当てられる。
「……負け、かぁ」
僕はそれを前に両手を上げて敗北を宣言した。
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