第3話
ここまでずっと病床に伏し、立つこともままならなくなっていたフォーエンス家が当主の正妻、クレス・フォーエンス。
どれだけ金を費やし、どれだけ高名な医師を集めてもなお決して回復しなかった僕の母が急に回復し、久方ぶりに立ったというのだ。
この事実はフォーエンス家全体にあまりにも大きな衝撃を与えた。
「……このような、このような日が再び訪れるとは」
お母様の回復。
それを受け、お父様の命で僕とお姉ちゃんはお父様とお母様の待つ当主用の執務室へとやってきていた。
「……えぇ、そうね。まさか私も……回復できるとは思わなかったわ」
僕とお姉ちゃんとお父様とお母様と。
家族全員が健康な状態で揃った。
僕が失踪し、お姉ちゃんが僕を追って国中と周り、お母様が病に冒された。
バラバラになってしまったフォーエンス家が何事もなく揃っている……この現実を前に、お父様が一筋の涙を流しながら感嘆の声を漏らし、それにお母様も同意する。
「……ねぇ、アレス」
「ん?」
「あの日……貴方が帰ってきたあの日。私がただの夢、幻想として記憶の隅に追いやっていた出来事。アレスが私に飲ませた病を治す薬。あれは本物なの?」
お母様が口にしたのは、僕がせっせと作ってお母様に飲ませた薬についてのことだった。
まぁ、そりゃ気になるよね。
「何の話だ?」
「僕はお母様が病にかかるよりも前にちょっくら家出しているのです。お母様の病気のことを知るはずも、ましてやその病を治す薬についてなんて知っているわけがないじゃないですか」
「……でも、貴方はあの日たしかに……」
「待て待て、何の話をしている?」
僕とお母様の会話にお父様が割り込んで入ってくる。
「お母様の中では、僕が病を治す薬を飲ませたということになっている。でも、僕は知らない。じゃあ、事実はなにか……この事実は追わなくてよくない?家族が揃った。それで満足するべきだ。人には話せないことだってあるしね」
「……むぅ」
お父様は決して愚鈍ではない。
僕の言葉で全てを察してくれただろう。
誰にも言えない情報源でもって僕がお母様を治したのだと。
「それは、家族に害を為すものか?」
「いいえ。神に誓っても」
「そうか……なら、良い。俺はお前を信じる。これ以上この話をするのはなしだ」
「……ごめん、待って?何の話?」
割と愚鈍よりのお姉ちゃんは僕を膝の上に抱えた状態で、首を傾げる。
「え?無視?」
「う、うむぅ……」
しかし、その質問に答えるのは誰もいなかった。
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