第14話

 堂々と偉そうに己の名を語ってみせたただの男爵風情。


「……はぁー」

 

 僕はそんな男の方へと一歩前踏み出し、口を開く。


「何の用?」


「……ッ!く、口の利き方に気をつけろよ……餓鬼が。この孤児院はこの街の発展のために邪魔なのだ。貴様ら凡夫にはわからぬだろうが、土地は場所によって価値が変わるのだ。ここはそこの餓鬼どもには過分。俺が有効活用するためにこの土地をもらってやるのだ」

 

「ここで平和に暮らしている子供たちから家を奪うと?」

 

 確かにこの男爵が言う通り孤児院が建てられている位置は絶妙だ。

 街を発展させるため、区画整理をする場合ここの孤児院がなくなってくれた方がやりやすいだろう。


「大多数が平和に暮らすためだ……俺とてこんな実力主義には出たくなったのであるぞ?本来であればシスターが死ぬのを待ち、そのまま餓鬼共が全員餓死するのを待つつもりであったのに……お前らのような蛆虫が変な正義感を振りかざしたせいで俺の計画がパァ。もはや強制的に打ち壊すしかあるまい」


「お、お待ち下さいッ!」

 

 男爵の言葉にリリアさんが体を震わせ、大きな声を張り上げる。


「あぁ、良いから。僕に任せて」

 

 僕はそんなリリアさんを後ろに押しのけて更に一歩前に出る。


「……いつまで俺の前に立っているのだ、餓鬼。この俺が誰だがわかってのろうぜ」


「知るかよ、ただの男爵風情など」

 

 僕は男爵の言葉を遮って言葉を吐き捨てる。

 

「「……ッ!?」」

 

 そんな僕の言葉に対して後ろのリリアさんが驚き……何なら普通喧嘩を売られることのない貴族である男爵までもが驚く。


「お、お、お前ッ!この俺に喧嘩を売るというのかッ!ただの冒険者の餓鬼がァッ!」


「僕の名はノームだ」


「貴様の名など知るかッ!」


「もう一度言うよ?僕の名はノームっていうんだ」


「……どうやら、どうやら貴様は本当に死にたいようだな。軽々しく我ら貴族に喧嘩を売るとどうなるかを」


「二度告げた。僕は寛大であるがゆえに三度目も許そう。しかし、四回目はない。これが最後……僕の名はアレス・フォーエンスだよ」


 僕は自身にかけていた変身魔法を解き、元のアレスの姿となって男爵の前に立つ。


「こぺっ!?」

 

 僕の言葉を聞いた男爵は口から泡を吹き出して白目を剥く。

 男爵と公爵。

 その家の家格の差は大きい……僕が未だ当主ではない子供であったとしてもただの男爵風情が僕の上になることはない。

 

「目上の人間のことはしっかりと把握しておいた方が良いよ?ヘルス。もう一度聞くよ?一体何の用?僕はこれからシスターを治しに行くのだけど」

 

 若干の嫌味を混ぜて僕は男爵へと言葉を告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る