第1話

 天火竜を殺し、キリエの母親が無事に病を治してから早いことでもう一週間。


「くくく……この我が喉を潤し白濁にして温かき供物は実に上手い」

 

 依頼が終わった後も何故かうちのパーティーに残り続けているキリエがミルクを飲んでほっと一息ついているのを横目に僕は口を開く。


「拠点を移さないかな?」

 

 今日の依頼も終わって夜。

 夕食を食べている同じパーティーメンバーに向けて僕は口を開く。


「え?なんで?」

 

 急な僕の提案にリーリエが驚きの声を漏らす。


「僕の個人的な事情」


「……なるほど。それは生家も関係している?」


「まぁ、そうだね」

 

 僕はリーリエの言葉に頷く。


「私は奴隷ですから。ノーム様に従うまでです。どこにでもついていきますよ」


「我と同じ運命の道に立ち、同様の使命を帯し汝たる願いとあればこの我が断ることは出来まい!もちろん一緒するとも」

 

「あ、貴方たちの受け入れ方尋常じゃないわね……まだ何も聞いていないのよ?」

 

 まだ僕から詳しい話をするよりも前にラレシアとキリエがノータイムで僕の申し出に同意する。


「……マジぃ?その受け入れ方はちょっと僕でも怖い」


「「えっ?」」


「まぁ……二人は置いておいて、私は詳細を聞きたいわね。どこに行きたいの?」


「タレシア王国」


「た、タレシア王国って随分な大国じゃない……貴方、タレシア王国の人間なの?」

 

 我が母国であるタレシア王国は世界でも有数の大国である。

 そこの国の貴族ともなればかなり驚かれるものであろう……僕はリーリエの言葉に対して具体的な明言は避け、ウィンクで返す。


「タレシア王国のとある街に行きたいんだよね……そこでちょっとした用事があって」


「なるほど……私の家であるレミア商会はちょっと海外にも手を伸ばしたいなぁーなんて考えているのだけど……」


「あぁ、もちろん。口添えはしとくよ。これでも僕は次期当主だからね。そこそこの礼は出来ると思うよ?」


「ふふっ。ありがと。良いわ。私もここから活動拠点を移すことに賛成。ノームについていくわ」


「ありがと」


 僕はリーリエの言葉に感謝を告げる……僕の計画的にはリーリエの協力は必須。ここで彼女がついて来てくれなかったら僕の計画は破綻していた。


「善は急げ、早速拠点を移す準備を始めていこ!」

 

 僕は立ちあがり、他のパーティーメンバに向かってそう告げた。

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