第二章
プロローグ
フォーエンス家は代々、何処の家よりも家族愛が強い傾向にある家である。
決して自分の家族を捨て駒に使うこともないし、政治的に利用することもない。
本人の意志を尊重する……政略結婚などが当たり前のこの時代においてかなり異質な一家だ。
そんな一家であるフォーエンス家で、長男であるアレス・フォーエンスが家出した。
いや、家出などするはずがない。
誘拐されたのだ。
そう判断したフォーエンス公爵家は己の持ちうるすべての力を総動員して、アレスの捜索を開始。
アレスが一人で国境を超えていたという情報をフォーエンス公爵家が得るまでの僅かな間に多くの犯罪組織が壊滅し、他国の間者の多くが白日にさらされることとなった。
■■■■■
フォーエンス公爵家が誇る白い宮廷。
美しくも洗練され、王城に勝るとも劣らないほどの広さと圧倒感を持つ建物の一室に。
大きな天蓋付きのベッドに体を横たわらせる一人の女性とその傍らで座る一人の男性が言葉を交えていた。
「あの子は……アレスは大丈夫かしら?」
「あぁ、大丈夫だとも。あの子は強く、賢い子だ。そう安々と死ぬようなタマではない。あいつ自身の足でちょっと出かけてくると言ったのだ……必ず帰ってくる」
「そうだと、良いのだけど……」
「それに今、テレアとレリシアの二人がアレス捜索のために様々なところを駆け巡っている。あの二人が動いてるのだ。問題はない」
テレアもレリシアも一級品の戦士だ。
レリシアに至ってはこの国で最も剣術が巧く、剣の頂きであると言えるほどだ。
「アレスの心配は良い……だから、お前はお前の体のことを心配してくれ」
原因不明の病で倒れ、病床の中にいるクレスの手をガイアが握る。
「……死ぬ前に、あの子の顔を一度はみたいなぁ」
「待て。大丈夫だ。一度などとは言わせない。アレスの顔どころか、アレスの子供。俺らの孫を見るまで死なせはしない……ッ!」
「……あらあら、頼もしいわねぇ」
アレスもテレアも家から離れ、その母であるクレスは病床に伏している。
「……」
すっかり静かになってしまった家の中で、その長であるガイアはゆっくりと手を握りしめた。
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