第40話
天火竜の住まう山。
「キリエが馬車を操れてよかった」
そこに向かう道中の馬車の御者台に座るのは一時的にパーティーへと加入してくれているキリエであった。
「むしろ、何故他の三人は引けないのだ……?我が降臨の前は如何様にして?」
「ラレシアに引いてもらっていた」
「頑張りました!」
僕の言葉に狭そうにしているラレシアが頷いて、ガッツポーズを取る。
「え、えぇ……」
そんな僕とラレシアの言葉に対してキリエが割と素の表情を浮かべて困惑の声を上げる。
「……いや、違うんよ。ラレシアは馬車を引いても速いんよ。すっごいんだよ」
「いや、それは決していたたけな少女を馬車馬のように歩かせていい理由にはなりませんよ?」
「私なら大丈夫です!お役に立てるのであれば!」
「じっと……」
ラレシアの言葉を受けてもキリエの視線が和らぐことはない。
いや、それも当然だろう。
「……いや、その、すいません……」
僕とリーリエは共にキリエ並びにラレシアから目を背ける。
「……キリエ様」
「ん?」
そんな中、ラレシアがキリエの方へと声をかける。
「私は不満に思っていません。奴隷という身分でありながらも友のように扱ってくださっていますから。何も文句はありません……むしろ、私の仕事が少なすぎて萎縮してしまっているくらいです。ですから、馬車を引けと言われたときは逆に喜んだくらいです。私の仕事が出来た。ここにいる理由が更に増えた、と。キリエ様のは私のことを思っての発言かと思われますが……お節介で押し付けがましい好意は時として何よりも残酷に他者を突き落とすのですよ?」
「えっ……あ、ごめんなさい」
僕とリーリエはキリエの言葉にたじたじとなり、更にキリエはラレシアの言葉にたじたじとなる。
「別に馬車の馬のようにならなくとも十分ラレシアは働いて……」
「足りませんよ。私には学がないですから……戦闘面以外のところでどうしても劣ってしまうんです。ですから、力仕事だけでも良いから輝きたいんです」
「……まぁ、ラレシアがそう言うなら……」
僕たちはそんな話をしながら馬車に乗って進むのであった……これから大きな戦いをするってときに一体僕らは何の話をしているんだ。
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