第36話
「んんっ。えっと、それで依頼としては竜を倒す、ってことだったけど……どれが良いとか言う指定はある?物によっては達成出来なそうなのもあるけど……」
中二病ワールドを展開し、この場の雰囲気を飲み込んでしまったキリエから場の支配権を奪う意味を込めて僕は口を開く。
「我が貴方たちに願いたいのは天火竜の討伐です」
「……天火竜」
キリエの言葉を聞いた僕は少し眉をひそめる。
基本的には火山を根城とする炎を司る竜……圧倒的と言えるほど強い竜ではないが、それでも決して弱くはない竜。
僕たちのパーティーで戦うのは少々キツイくらいの相手だ。
「我が母は現在、病を患って自室で一人。いつし死ぬかもわからないところをさまよってる……母を救えるのは運命に魅入らせし我だけである」
僕の目の前に座るキリエは瞳に力強い意志の力を浮かべ、口を開く。
「我と、母と血を分けし兄弟姉妹も……父ですら諦めた。しかし、この我だけは諦めるわけにはいかぬ。貴方たちが最後の希望なのです。どうか……お力添えを」
キリエは中二病精神を醸し出しながらも真剣で強い思いと確かな敬意でもって僕たちへと頭を下げる。
「母を思う気持ちはよくわかります」
僕がここに座っているのは己の母の病を治すためである。
「共に天火竜を倒し、キリエの母の病を治しましょう!」
自分と同じような境遇にあると聞かされ、それを無碍に出来るわけがなかった。
「……ッ!あぁ、さすがは我と同じく
「いえいえ、人として当然の話です」
「そう言ってくれて感謝致します。我はこれでも天命に愛され、運命を擁する者である。決して貴方たちの足を引っ張らぬと天へと誓おう。これでも我はサバイバル経験もありますから」
「なるほど……それは心強いね。うーん、と。見た目通り、魔法使いってことで良いかな?」
「えぇ……厳密には違いますがその認識で概ね間違いありません。ふふふ、我の深淵を覗くには……まだ少々早すぎる。ノームであれば構いませんが」
「……ふむ。今は遠慮しておきましょう」
キリエの僕に対する信頼度の高さはなんだ……?なんか妙に信頼されている気がする。同類にでも接するような……。
「さて。いきなり天火竜に喧嘩をふっかけるわけにもいかないし、まずは肩慣らしの意味も込めて天魔の森の方で数戦しなきゃかな?」
僕が抱いた感想は一旦置いておいて……先のことを見据えての提案をしたのだった。
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