第35話

 絶対に断ることの出来ない領主からの依頼。

 その依頼において最も大きな要因であるのが領主の娘さんのことだろう。


「……なんか、ヤベェの来た」


「何かしら……あれ」


「何故だがわかりませんが、近づいちゃいけない気がします……ッ!」


 その娘さんとの初めての顔合わせの場にやってきた中二病感満載の少女を見て僕たち三人はただただ困惑する。


「あぁ……我としたことが。運命的な出会いを前に高揚してしまい、我が名を伝えることを忘れていました」


 そんな僕たちのことなど見えないと言わんばかりに領主の娘さんはどんどん言葉を転がしていく。


「我の名前はキリエ・メルボラン。この街の領主たるライゼ・メルボランの次女にございます……ふふふ。この名を覚えてさえくれれば十分でありますが、我と共にある運命を見る貴方たちには我の真名を教える必要があるでしょう。我の真名はミラ・エピステーメー・フェアエンデルク・シュライベン・プロタゴニストゥリアであります」


「おぉう……」

 

 彼女……キリエの自己紹介にどう反応すれば良いだろうか?

 僕はただ、何とも言えない声を漏らすことしか出来ない……真名って何やねん。長すぎだろ。


「これはご丁寧にどうも。私はリーリエ・レミア。これから同じ仲間となる同士、仲良くなれれば……その、何てお呼びすれば?」


「申し訳ない。我の真名はそう安々と明かせるものでなく……真名ではなく仮の名、キリエと呼んでいただきたい」


「なるほど。わかりました。キリエ殿」


「ふふふ。そう遠慮することはない。気軽に呼び捨てで、敬語もなしで構わない。共に運命を歩む仲間であるゆえに」


「え、えぇ……それじゃあ遠慮なく。よろしく、キリエ」

 

 僕が困惑しているのを横目にリーリエが自己紹介を済ませてしまう……次は僕か。


「どうも、始めまして。僕はノーム。ただのノームであります。以後お見知りおきを、キリエ」

 

 僕は貴族流の一礼をキリエへとして見せる。


「……ッ!ふ、ふふふ……やはり、貴方の『真』の姿は別にあるのですね」


「んっ……?まぁ」


 何故だかはわからないが、キリエの言葉にそこはかとなく違和感を感じたが、それを気の所為として流してしまう。


「それで?そちらの大きく、精悍な方は?」


 僕が違和感を覚えている間にキリエがラレシアの方へと言葉を向ける。


「あっ!私はラレシアとい、言います!ただの奴隷です!よろしくお願いします!」

 

 キリエに自己紹介を促されたラレシアは慌てて口を開き、自分の名を告げたのだった。

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