第32話
天魔の森から帰ってきてメルボランにあるギルドの酒場。
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様」
「ありがとうございますー!」
酒場の方でエールを三つ頼んだ僕たちのパーティーはギルドの一角にあるテーブルで乾杯を交わす。
そして、ぬるくてまずく、ただただアルコールを摂取して酔うだけの飲み物であるエールを胃の中へと流し込んでいく。
「オーガを無傷かつ単騎で倒す……正直に言うと火力面で言えばまだ不安は残るけど、それでも耐久力と体の動き的には仕上がってきたわね」
「そうだね。もう僕たちに混ざって戦ってもちゃんと戦えるかも。リーリエもヒーラーとしての動きが堂に入ってきたし、そろそろ本格的に僕たちの冒険を再開してもいいかもね」
ラレシアを購入してから今に至るまでの時間は成長期間。
各々の力を高める時間だった。
ラレシアだけでなく、リーリエも回復職としての動き、必要になる魔法の数々について学んでいたし、僕だってそうだ。
魔法に関する基本的な修練から今勉強中の時空間魔法の成長。
短剣以外の武器を最低限振るえるようにするための訓練に、ピッキング能力から料理スキル、サバイバル能力などと言った冒険者をやっていく上で覚えておくと便利になるような技術の数々の習得。
僕たち全員が次なるステップに進むための大事な時間を過ごせた。
貴族である僕は料理だったりサバイバルだったり、冒険者たちがやるような雑で便利なスキルの数々はあまり学べないものなので、新鮮で学べてよかった。
「そうね。もっと天魔の森の奥の方に行きたいわね」
「うん。このギルドにたまっている高難易度依頼とかもちょこちょこ解決していきたいしね」
「そうね」
「頑張ります!」
「うん。ラレシアには期待しているよ」
「ありがとうございます!」
この三か月ですっかり僕とリーリエに打ち解けてくれたラレシアが僕の言葉に瞳を輝かせながら頷いてくれる。
「っと。未来の展望を語るよりも前にまずは目の前のごはんよ。早く食べないと冷めてしまうわ」
「そうだね」
僕はリーリエの言葉に頷き、目の前にある料理へと手をつける。
奴隷であり、誰よりも巨大で誰よりも威圧感があるラレシアの影にいる僕とリーリエ。
僕たちは誰からも話しかけられることなく楽しい晩餐を過ごすのだった。
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