第21話

 ゴブリンキングの前に並んだ僕とリーリエの二人。


「遅い」


「ガァァァァァ!?」


「こっちよッ!」


「ガァァァァァ!?」

 

 僕たちは完全にゴブリンキングを手玉に取っていた。

 ヘイトを上手く管理しながらゴブリンキングの周りを飛び回り、抜群のコンビネーションでゴブリンキングへと攻撃を加えていく。


「……ここまで完璧に合わせられると逆に怖いわね」


「いやぁ、それほどでも。相手を掌握する僕の監査魔法は抜群でしょ?」


「……絶対に敵に回したくないわね」


「僕のようなクソチビが敵と戦うにはこれくらいの情報がないと勝てないんだよ」

 

 ゴブリンキング並びにリーリエの息遣い、筋肉の動かし方、向いている視線から体の向きまで。

 ありとあらゆる情報を魔法で手にし、それでもって相手の次の行動を予測して自分の体を動かす。

 こうすることでようやく僕はゴブリンキングの攻撃を回避し、リーリエの動きに完璧に合わせられるのだ。


「……ガァ」

 

 僕の黒い炎とリーリエの氷結。

 短剣による切り傷にレイピアによる刺し傷。

 これ以上無いまでほどに体へと傷をつけ、血を流しすぎたゴブリンキングがとうとう膝をつく。


「ようやく倒れたか……」

 

「まだ油断しないでよ?」


「するわけないよ」

 

 リーリエの言葉に対してそう答えると、これまでずっと裏で用意していた魔法を機動する。


「……生まれたことを後悔しながら死ね」

 

 動けずにいるゴブリンキングへと魔法を掃射。

 ゴブリンキングの体へと様々な魔法がぶつかり、轟音を鳴らして、視界を焼く。


「あ、圧巻ね」

 

 これまでずっと用意していた数々の大魔法。

 それを前にして既に膝をつくまでに追い詰められていたゴブリンキングが耐えられるわけがない。


「ガァ……」 

 

 全ての魔法を食らった後もいくばくか耐えていたゴブリンキングだが、その体を横へと倒して絶命する。

 

「……っと」

 

 僕の方にまで届いてきたゴブリンキングの巨体より流れる大量の血を慌てて僕は避ける。


「……完全に死んでいるわよね?」


「死んでいるよ。呼吸もしていなければ、心臓も動いていない。脳すら活動していないね。確実に死んだよ」


「……脳の活動までわかる貴方って」

 

 僕のデタラメさに頬を引きつらせたリーリエを横目に僕はふわりと浮かび上がる。


「僕の魔法は少しばかり特殊なんだよ」

 

 ずっと知覚していた。

 子宮の中で生命が芽吹き、胎動し、成長していく過程を。

 魂でもって体が、脳が、生命が形成させていくのをただただ漠然と知覚し続けていたのだ。

 だからこそ、この世界の誰よりも人体を知っている。

 だからこそ、僕は誰よりも正確に人体を把握出来る。


「よっと。よし、早く移動しようか。後始末が残っている」

 

 僕はリーリエへと笑いかけた。

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