№14 『影使い』同盟
呆気に取られていたハルだったが、そんな場合ではない。ことによっては戦闘を回避できるかもしれないのだ。今のハルたちにとって、無駄な戦いはできるだけ避けたかった。
「と、とりあえず、僕らの仲間になってくれるの?」
その問いかけに、『ライムライト』はどこか媚びるような目つきと口調で答える。
「ええ、ええ! もちろん! ただし、あなた方が『影の王国』につくというのならば! そうすれば、わたくしたちはお友達ですわ! 大丈夫、悪いようにはいたしません! お友達になればすべて解決ですわ! きっときっと、みんなしあわせになれますわ!」
まるで自分に言い聞かせているかのようなセールストークに、ハルは考え込んだ。
どうする?
ここで正体もよくわからない敵とぶつかって、ASSBにも追われて、となれば、さすがにハルもキャパオーバーだ。消耗戦になっている以上、無駄な動きは最小限に留めなければならない。
さいわい、『ライムライト』は頭が回るタイプではないらしい。今も待てを命じられた犬のようにハルの返答を待っている。『モダンタイムス』の目論見はわからないが、こんな刺客を送ってきたのだ、ハルたちの仲間になることは想定しているはず。
そんな思惑に乗るのは気が引けたが、ここはひとつ、ウソをついて仲間になってもらおう。純粋な『ライムライト』をだますようで気が引けるが、仕方がない。
「……わかった。僕たちは『影の王国』の側につくよ。その代わり、僕たちをASSBの追手から守ってほしいんだ。できる?」
「できますとも!」
即答した『ライムライト』はへこへこと頭を下げて、
「ありがとうございます! わたくし、必ずあなた方を守りますわ! なんたって、わたくしたちはお友達ですもの! ああ、うれしい! わたくしにもお友達ができましたわ! どうか、見捨てないでくださいまし!」
ハルの手を取ると、『ライムライト』は無理矢理に握手をした。
偽りの友情が成立した証の握手だ。その盟約を、影子は煙たそうに眺めていた。
互いのことを軽く自己紹介している内に、買い出しに行っていた久太が戻ってきた。わけを話すと困ったような顔でうなる。
「……ああ、なんかイタいやつが新『ライムライト』になったって、『モダンタイムス』が言ってたな。それがこいつか……」
「『モダンタイムス』がそんなことを!?」
聞き耳を立てていたらしい『ライムライト』が驚きの声を上げる。しかし、次の瞬間には大げさな芝居がかった口調で、
「いいえ! 『モダンタイムス』はわたくしの大切なお友達! 『街の灯』、きっとあなたともお友達になれますわ! お友達のところにお友達を連れていけば、お友達の輪が広がりますの! そうすれば、もっともっと、お友達が増えますわ!」
なんだかタモさんのようなことを言い出して、ひとり感慨にふける『ライムライト』。
それはひとまずそっとしておいて、久太に話を聞く。
「俺も詳しくは知らない。『ライムライト』の『影』のことも、過去も素性も。けどまあ、協力者が増えるんならそれに越したことはねえんじゃねえか?」
久太はこの対応に賛同してくれた。
一方の影子は、けっ、とそっぽを向いて、
「……勝手にしろ」
どうやら納得いかないらしいが、そこを我慢してくれている。つくづく付き合わせて悪いと思った。
お友達、という響きにうっとりしている『ライムライト』。きっと、本当に今まで友達がいなかったのだろう。ウソをついている罪悪感があったが、これは緊急措置だと自分に言い聞かせる。
『ライムライト』に向き直り、ハルは宣言した。
「だったら、今から君は僕らの仲間だ。僕、『街の灯』、『ライムライト』。この三人の『影使い』で同盟を組もう。しばらくの間、僕らは第三勢力だ。ASSBの追手を完全に撒くまではね」
そして、左手を差し出す。久太もそれにならい、左手を重ねた。しばらくきょとんとしていた『ライムライト』も、うれしそうに左手を重ね、
「『影使い』同盟、ここに結成だ」
「はい!」
こうして、一時的な第三勢力が生まれた。『影の王国』でもASSBでもない、『影使い』としての同盟だ。これが吉と出るか凶と出るか、考え物だが……
「そういえば、『モダンタイムス』からこれを託されましたの」
思い出したようにつぶやいて、『ライムライト』はカバンから一通の封筒を取り出した。『モダンタイムス』からの書状だ。またなにか仕掛けてくるつもりだろうか?
封筒を受け取り、その場で開封するハル。
全員で覗き込んだ、その書面には……
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