№11 作戦決行
「……みんな、予定通りに」
奥歯を食いしばりながら、ハルは全員に伝達する。
それが戦闘開始の合図だった。
『メイド』の影に向かって、ミシェーラの『影爆弾』が殺到する。影に入り込み、爆発させる黒いブリキの兵隊たち。マトの大きな『メイド』には有効打になるということは実証済みだ。
案の定、『メイド』は『影爆弾』を避けきれず、その大きな影が大爆発した。右足が黒い破片となって砕け散り、膝を突く『メイド』。
「まだまだだよ?」
無数に浮かんだ『黒曜石のナイフ』もまた、一斉に『メイド』の影に襲いかかった。回避能力が極端に落ちた『メイド』にすべてのやいばが突き立ち、黒い血しぶきが上がった。
そして、その本体である久太のからだからも血が流れる。『影』を傷つけられる、イコール、本体も傷つけるのがこの『黒曜石のナイフ』の特性だ。
『影爆弾』しかり、『黒曜石のナイフ』しかり、こういったじゅうたん爆撃的な攻撃には、巨大な『メイド』はとことん弱い。そうなると、当然ながら『影使い』を攻撃してくるだろう。
『メイド』がこぶしを振り上げ、ザザに向かって振り下ろそうとした。
「そうはいかねえっての!」
すかさず影子がガードに入る。今回、影子はディフェンスに回ってもらった。前回の戦いではミシェーラ本体を潰されてかなり苦戦したので、その轍を踏まないよう講じた策だ。
チェインソウでこぶしを弾き飛ばされた『メイド』の影に、黒いブリキの兵隊が、漆黒のナイフが追撃を仕掛けた。
爆風、そしてやいばの嵐。見る間に『メイド』は消耗し、その巨躯は欠けだらけになってしまった。久太本体もまた、爆発や『黒曜石のナイフ』の追加効果で血まみれになっている。
とうとう『メイド』がくずおれ、どしん、と地に倒れ伏した。久太も苦しげにうめいている。
そのとたん、草陰に潜んでいたらしい黒いボディーアーマーの人間が飛び出してきた。どうやら、援護はできないが少数の『猟犬部隊』はずっとハルたちのことをつけてきていたらしい。
そして、機会をうかがって久太を拘束しようという手はずになっていたのだ。
三人の装甲服たちが久太を羽交い絞めにしようとする。
「やめろ! 触んな!!」
その手から逃れようともがくが、すっかり満身創痍になっている久太は無力だった。足払いをかけられ、その場に組み伏せられると、そのまま腕を極められてしまう。
「離せ!!」
「対象、確保しました!」
『猟犬部隊』が無線に向かって叫んでいる。おそらくは本部の逆柳に連絡をしているのだろう。じたばたもがく久太を押さえつけながら、他のふたりは車両を手配したり拘束具を準備したりと忙しい。
結果として、久太は『影の王国』側にいながらにして囚われの身となった。
……これでいいのか?
本当に、これでいいのか?
久太は本当に罰を受けたがっているのか?
また失うことになっていいのか?
…………いやだ。
気が付いたら、ハルは久太に向かって走り出していた。
そして、久太を拘束していた装甲服に体当たりをする。予想外の方向からの攻撃に、プロフェッショナルであるはずの『猟犬部隊』も対処しきれなかった。よろけた隙を突いて、久太を引きずり起こす。
「……なっ……に、やってんだよ……!?」
「いいから!! 走って!!」
ハルは久太の手を取り、強引に駆け出した。久太は傷だらけの『メイド』を影に戻し、影子もまたとっさにハルについてくる。
背後からばたばたと足音が追ってきた。『猟犬部隊』の三人だろう。全速力で走っているうちに、久太も体勢を立て直して同じように走り出す。
さすがに保護対象に向かって発砲はしてこないだろう。ハルの目論見は当たり、『猟犬部隊』は追いかけて来るばかりだ。
三人で脱兎のごとく走りながら、久太がわめいた。
「お前、自分でなにやってんのかわかってんのか!?」
「僕にもわかんないよ!!」
ハルも久太以上の声量でわめき散らす。
「けど!! 君をまた失うのはイヤなんだよ!! 友達なんだから!!」
「と、友達……!?」
「早く! 走って!!」
追手はだいぶ撒いたようだが、出来るだけ距離を稼ぎたい。ぐねぐねと裏路地を行きながら、影子がゴミ箱をぶちまけたり立てかけてあった木材をばら撒いたりしている。
「……ごめん影子、付き合わせちゃって」
「……アンタのやることだ、今更驚かねえよ」
そう言うが、影子はどこか複雑そうな顔をしていた。納得しきれていないことはハルにでもわかる。心底から申し訳なくなったが、影子抜きでは逃げ切れないだろう。付き合ってもらうしかない。
そして、そのまま三人は街の奥底へと逃げ込んでいった。
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