第4話 哀悼すらも踏みにじる


 異世界にて使命を果たすと決めた所で、それはアレ厄災の思惑通り簡単な事ではなかった。

 例え全員が厄災リポノア討伐を掲げた所で、何一つ知らない異世界で何から始めるべきかと迷うのは定石である。


 各々が持つ【能力】も同じものだったり、違ったり、強かったりと差があった。

 如何にか成長や変化させても、優劣は出てしまう。

 それは最終的には幾つかの派閥などに分裂する結果となり、過程で何人も身内内で死者を出した。

 国を作った者、傭兵となった者や勇者と名乗りパーティを組んだ者もいたが、たった一つ ―― 厄災リポノアの討伐だけは誰もが違うことなく抱く悲願であった。

 まるでそれを煽るようにリポノアは姿を現した。


 彼女の姿を借りて。


【やぁ、ご機嫌如何かな?慈悲深いこの俺が挨拶にきたぞ?】

 そういって、彼女と似ても似つかない顔で嗤っていたのだ。

 アイツ厄災は端から取り込んだ奴の姿で遊ぶつもりだったのだ。と、我らの前に現れては、ひそひそと内緒話でもするように囁いた。

 彼女の少し日に焼けた髪が真っ黒に変わり、額に悍ましい赤黒い角が生えていても、時折遊ぶように厄災リポノアが見せつける微笑みは間違いなく彼女の物だった。

 アレ厄災が、邪神リポノアがその姿を穢すように暴れ壊し、虐殺を繰り返すたびに憎悪が育っていくのを誰もが感じていた。

【これこそ、お前たちの犠牲者たるこいつが望んだ事さ】

 そう嘯くあの邪神リポノアに届かなくとも剣を、魔法を、拳を飛ばしたのは幾度か。

 それでも時折動きを止め苦しみ、邪神リポノアが真似るのは違う、彼女の微笑みが垣間見えたのは ――取り込まれて尚、彼女が抗っていた証拠だろう。


 醜い身内争いから何人も死に、そのたびに彼女が儚く笑う。

 何度自分たちの愚かさに嘆いた事か。それでも邪神リポノアを打ち倒すことだけは諦める事はなかった。


【俺が真実を言っているとおもっていたのか?】

 そうして、漸く奴を討ち取った時。

 死に際に邪神リポノアが告げたのは、彼女が生きているという真実。

 彼女を生かし続け己が殺されれば彼女もまた死ぬように、初めからそう仕組んでいたのだと。

【お前らの犠牲者は、お前らによって殺された。これだけが真実だ。】

 息も絶え絶えに笑う悪夢に、その場にいた者は動けなかった。



 また、彼女だけが動けたのだ。



 嗤う厄災の胸を、誰かが落とした聖剣で貫いて。

 不思議そうな悪魔の顔は彼女の微笑みに変わり、そっとその体は光に溶けて行った。


 彼女は最後まで我らを守り続けて逝った。

 殺したのも死んだのも誰かの罪ではなく、自分自身の選択で、自分の意思だったと言うように。


 ―――自分で死んでしまった。


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